GM研ゲーム大賞2002


■「GM研ゲーム大賞2002」とは?

 「GM研ゲーム大賞2002」とは、2001年12月〜2002年11月末の間に発売された、家庭用ゲームソフトを勝手に表彰するコーナーであり、2002年末の冬コミで発行されたコピー本「年鑑GM研2002」において発表された内容を、遅ればせながらWEB用に再編集して掲載したものです。これらはすべて私の独断と偏見ですが、その基準は1人のゲーマーとしての生の声であり、商業の論理にまみれたCESA主催のゲーム大賞に比べれば、よっぽど信頼に足る内容だと自負しています。作品名にはレビューへのリンクが貼ってありますので、作品に興味をお持ちの方はそちらも合わせてご覧ください。


■ゲームデザイン部門賞

 【脚本賞 : Ever17 -the out of infinity-】 
 2002年の私は、例年になく数多くのシナリオ型アドベンチャーゲームをプレーしましたが、その中でも一際突出した存在だったのが「Ever17」でした。恋愛アドベンチャーゲームにありがちな「キャラクターを主体としてルート分岐していくシナリオ」という構造ではなく、「各シナリオに散りばめられた謎を収束させていく」というEver17のシナリオ構造は、作品全体をひとつのシナリオとして評価できる、非常に完成度の高いシナリオだと思います。

 【演出賞 : 悪代官】 
 時代劇の時代考証をいきなり放り投げてしまう豪快さ、アイテム解説欄の一字一句にまで徹底的にふざけ倒すコダワリと奇抜で新鮮なコンセプトと突き抜けた感性は、毒電波を通り越して何とも言い難い独特のセンスを醸し出しています。悪代官役と大黒屋役の配役も見事だった。美麗なCGムービーなんて要らない。ゲームは演出の仕方次第でいくらでも面白くなる、そんな基本を思い出させてくれる逸品です。

 【設定賞 : Ever17 -the out of infinity-】 
 恋愛アドベンチャーゲーム特有の1人称視点の構造そのものを逆手に取り、"主観"としての視点だけでなく"空間"としての視点によって、遊び手を「騙す」こと自体に大きな意味を持たせた構造は非常に面白かったし、あらゆる設定に意味や必然性があったのも非常に面白かった。SF(サイエンス・フィクション)作品として見ても、非常に高いレベルで完成された"意欲作"だと高く評価したいと思います。

 【企画賞 : 鉄騎】 
 2本のコントロールレバー、ギアレバー、チューナーダイアル、トグルスイッチを含む40個強のボタンとレバーで構成された、超巨大専用コントローラ。コックピトからの脱出に失敗すればメモリ消去、という、あまりにも挑発的な企画を本当に実現させてしまったカプコンも偉いが、あの巨大な箱でも躊躇わずその漢気に応えてみせた世のゲーマー達も偉い。遊び手が望んでいるものは何なのか、「鉄騎」の成功はその答えを雄弁に物語っていると思います。

 【美術賞 : ICO】 
 業界トップクリエータ達が口を揃えて絶賛し、口コミで徐々に評価が浸透していった「ICO」ですが、美術面でもその美しさは際立った存在でした。余計な説明や数字をすべて省いて、徹底的に独自の世界観を構築し、光と影、そのすべてが極限までリアルに描き込まれた世界の中で、輪郭がぼやけた少女:ヨルダの脆くて儚い存在感。そして、その手を引くことで伝わる重みと温もり…ゲームのリアルは詩的な美しさの領域に達したと言っていいでしょう。

 【メカデザイン賞 : ゼノサーガ エピソードI 力への意志】 
 壮大なスケールで宇宙の創世から終焉までを描く「ゼノサーガ」ですが、果たして完結はいつになることやら…作品としての評価は現段階ではできませんが、徹底的に構築された独特のSFな世界観は素直に評価したいと思います。建造物やロボットが格好良すぎて、キャラクターのモデリングが相対的にヘボく見えてしまうのは難点ですが…

 【エフェクト賞 : 君が望む永遠(DC版)】 
 感極まった場面で効果的に使われた、涙で滲むような画面効果の破壊力は抜群でした。これなくして、「君望」は「君望」足り得なかった、と言っても過言ではないかもしれない。 色々な意味で衝撃的な作品なので、こういう細かい所までなかなか評価の目が行き届かないものですが、こういう芸の細かさあってこそ、「ゲームだから面白い」と思えるのです。

 【OPムービー賞 : 君が望む永遠(DC版)「yours」】 
 「君が望む永遠(DC版)」には2種類のオープニングムービーがありますが、家庭用オリジナル版のOPの出来が最高でした。ゲームを知れば知るほど、そこで描かれる内容の深さを思い知ることになります。とても哀しくて切なくて愛しくて… 震えるような歌声で歌い上げられるシンプルな歌詞も心に響きました。CDシングルに収録されているフルバージョンの出来も最高でした。

 【作曲賞 : 「Karma」 (Ever17 -the out of infinity-) 】 
 「EVER17」のメインテーマのピアノソロであり、そして、最も印象的な場面で使われた曲でもある「Karma」が文句なしの受賞です。その背景に流れていたこの曲を聴いた時、思わずゲームのオプションをいじって音量を「大」に設定し直して、ゲームの手を止めて聴き入ってしまいました。今でも、この曲を聴くと、あの名場面が蘇ってきて、目頭が熱くなります。名曲は名場面で使われてこそ、その真価を発揮するものであり、シンプルであればあるほど深く心に残るものなのです。

 【主題歌賞 : みずいろ「みずいろ」】 
 今や「ギャルゲー界の歌姫」と呼ばれている佐藤裕美さんですが、私は「みずいろ」からファンになりました。最近はゲームの主題歌に一流歌手を起用するケースも増えてきましたが、やはりゲームの主題歌は専門が歌った方がしっくりきますね。声優歌手では難しいキーや歌い回しを苦も無く歌い上げるその歌唱力は、群を抜いています。「みずいろ」は佐藤さん本来の音域の曲ではありませんが、そのたどたどしさが作品の雰囲気にマッチして、思わぬ効果を引き出しています。


■キャラクター部門賞

 【主演男優賞 : 原黒主水之助兵衛(悪代官)】
 【助演男優賞 : 大黒屋金次(悪代官)】
 キャラクター部門では、主演男優・助演男優、ともに「悪代官」が独占しました。近年稀に見る特濃でアクの強いキャラクターは、見るものに強烈な印象を与えました。配役の妙によって、実写撮り込みという使い古された技術でもここまで面白くできるのだということ、そして、「どんなにCGが進化しても、最後にはヒトの演技力には敵わない」とも実感させられました。

 【主演女優賞 : 早坂日和(みずいろ)】
 【助演女優賞 : 鴨居奈々子(ミッシングパーツ)】
 私は年間で相当本数のギャルゲーをこなしているのでこの部門は最も競争が激しかったのですが、「ぽんこつさん」というまったく新しい幼馴染像を確立した「みずいろ」の早坂日和が、「君望」の涼宮遙を僅差で抑えて主演女優賞に輝きました。また、助演女優賞には、「ミッシングパーツ」シリーズの鴨居奈々子が受賞。最近のゲームはキャラクター次第で売上や評価が決まってしまうほど、重要なファクターになっているようです。(それのみがゲームの目的となってしまうのはどうかと思いますが…)

 【ベストネーミング賞 : 田中 優美清春香奈(Ever17)】
 ギャルゲーのキャラの名前は「ありそうでない名前」が使われることが多く、聞き慣れない名前は今更珍しくも無いのだが、この果てしなく長い名前のインパクトは強烈でした。どこをどう考えれば、こんな名前を思いつくのか、不思議でならない。なまじ苗字が「田中」と平凡であるだけに、そのギャップによる効果も大きい。現実にこれが自分の名前だったらものすごく嫌だと思うけど。


■クリエータ部門賞

 【ベストプロデューサー賞 : アンディ山本】 
 2002年も数多くのゲームクリエータがゲーム業界を賑わせましたが、GM研が最も注目したのは、問題作「悪代官」を世に送り出したプロデューサー:グローバル・A・エンタテイメントのアンディ山本氏です。プロデューサーの手腕ひとつで、ゲームはここまで面白く出来るんだ、高い宣伝費を使わなくても工夫次第でアピールできるんだ、という「プロの仕事」の凄みを見せ付けられました。自ら広告塔となり誌面に露出し、大吟醸酒:悪代官とのタイアップなど、今まで誰もやらなかった角度から話題を作り、手を組みたくない相手との協力も私情を抜きにして受け入れた。その手腕は、どこぞの半タレント化した大プロデューサー達よりも、高く評価されてしかるべきものです。


■特別賞

 【アニメーション賞 : ほしのこえ】 
 これはゲームの表彰とはまったく別物なのですが、特別賞として個人製作アニメ「ほしのこえ」にも賞を贈りたいと思います。このような才能がアニメの世界の外から出現したこと、誰もが単独でアニメ作品を作り得る環境が既に存在すること、このような個人表現が受け入れられる市場が成立したこと。「ほしのこえ」の大きな成功は、製作側と視聴者、両方に意識革命をもたらしました。そういう現象面であまりにも高く評価されすぎてしまったため、作品単体としての評価が論じられることが少ないのが残念です。レビューを書いておいて言うのも何ですが、この作品に限っては前情報なるべく耳に入れない方が、素直に楽しめるのかもしれませんね。

 【ワースト作品賞:想い出にかわる君〜Memories Off〜】 
 審査対象期間にギリギリ滑り込みを果たした「想い出にかわる君」ですが、Memories Offシリーズという看板タイトルなので期待が大きすぎたためか、修羅場の合間を縫ってまでしてプレーした反動のためか、非常にガッカリさせられました。正ヒロインの異次元ボイスを聞くたびにヤル気が削がれるし、キャラクター達は揃いも揃って痛い人ばかりだし、唐突過ぎる展開で、恋愛モノとしてもゲームとしても完全に破綻しています。奇しくも今年のワーストとベストをKID作品が独占する結果になろうとは…


■2002年最優秀作品賞

 【Ever17 -the out of infinity-】 
 脚本・設定・作曲・ベストネーミング、今回最多タイの4部門を制した「Ever17 -the out of infinity-」が、GM研の2002年最優秀作品賞に輝きました。ゲーム序盤の掴みの弱すぎる展開、笑えないギャグ、謎が解けないまま30時間近い前フリを悶々と過ごさねばならないなど、超えなければらないハードルは決して低くないが、ゲーム終盤にすべての謎が怒涛の勢いで1点に収束して行き評価の大逆転が起きる知的興奮と、それまでの苦労がすべて報われる最高のハッピーエンドのためなら、決して損だとは感じないことでしょう。

 詳しい解説はレビューを参照していただくとして、昨今の家庭用ギャルゲーの凋落振りを嘆いている諸兄には、ぜひともこの作品を体験していただきたい。そして、久しぶりに「誰かとトコトン語り合ってみたい」そんな気持ちにさせてくれるこの名作が、ギャルゲーという見た目とジャンルへの偏見によって、世の大多数のゲーマー達の目に止まることなく敬遠されてしまうことがないよう、切に願いたいものです。


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