想い出にかわる君〜Memories Off〜
PS2
DC
製作:KID   2002/11/28発売
 恋愛・ドラマ  恋愛アドベンチャー  38時間 
開発:SDR project  キャラクターデザイン:輿水隆之

「想い出にかわる君」とは?

 「想い出にかわる君」とは、KIDの看板タイトル「Memories Off」シリーズの外伝的な位置付けの作品です。「1st」では、失った想いと今ある想いへの葛藤の物語を、「2nd」では、今の想いと新たな想いへとの葛藤の物語を描いてきました。 そして、シリーズ最新作となる今作では、「2nd」から1年後の前作たちとリンクした世界の、とある街のカフェを舞台として、かつて失ったと思っていた「想い」に再び巡り逢う物語が描かれています。「恋の終わり」から始まった1st、「恋の真っ只中」を描いた2nd、そして今作は原点に戻って恋愛の原点「恋の始まり」を描きたい…そのあたりに、今作を敢えて「3rd」とナンバリングしなかった、開発陣の真意があるのかも知れませんね。

 しかし、いかに外伝とはいえ、キャラクターデザイナーをなぜ交代させたのか、SDRプロジェクトの主力が「Ever17」に投入されて手薄な状態のまま、この時期に看板タイトルの新作をリリースしなければならなかったのか…発売前から一抹の不安は確かにありました。でも、まさか、その不安がこうも見事に十二分に的中してしまうことになろうとは、思いも寄りませんでしたが…

「たはーっ」…破綻した対立構造が生んだ歪み

 このゲームのシナリオは、6人のヒロインを3組のペアに分けて、「常識と独創編、正義と真実編、依存と独立編」という対立構造を持った3本のルートを、2人のヒロインのルートに分岐させた6本のシナリオで構成されています。そのすべてをクリアしてから、ようやく正ヒロインの「黒須カナタ」をメインにした「True Story」が始まります。これはKID作品の伝統的な手法のようで、「Ever17」のような評価の大逆転が最後に起こるのだと、私は信じていたのですが…その期待は、最悪のカタチで見事に裏切られました。

 「たはーっ」とは、この作品の主人公の口癖ですが、その口癖を発して優柔不断と思考停止と愚行に走る主人公を見るたびに、私は何度もコントローラーを(布団に)投げつけてしまいました。メモオフというブランドとレビュアーの義務感が無ければ、絶対に途中で投げ出していたと思います。いや、いっそのこと、全てを棄てて逃げ出せたらどれだけ幸せだった事か…

 最大の問題点は、対立構造にする意味が全く活かされていない事です。6人のルートが7割方共通であり、残りの3割でようやく2人の対立構造に入るのですが、その対立構造もほとんど共通であり、最後の1割弱だけ分岐させて強引に個別のヒロインエンドに突き進んでしまいます。どこまでもボケ倒す日常会話や教訓めいたセリフは不必要なくらい冗長なのに、肝心な場面では説明不足にも程がある。修羅場が次の瞬間にはなぜか何事も無かったように場が収まっていたり、優柔不断と無知ゆえに暴走の連鎖を繰り返す主人公といい、ラストシーンで突然豹変するヒロインといい…完全にプレイヤーの感情と理解力は遙か彼方に置き去りにされてしまうのです。

テーマに押し潰されたキャラクター達の「想い」

 このゲームが構造的に失敗した最大の原因は、「主人公を主体とした恋愛」になってしまったことでしょう。しかも、選択肢分岐型のゲームでありながら、その選択結果が行動としてほとんどの場面で反映されない(どちらを選んでも行動に変化がなく、ただ単に心の中でそう思うだけ)ので、プレイヤーはただひたすら駄目人間の駄目恋愛と駄目苦悩を眺める作業に終始することになるのです。

 確かに、メモオフの歴代主人公はロクな人間ではありませんでした。むしろ憎たらしいくらいの馬鹿者揃いです。だが、主人公に感情移入させないことで逆説的にヒロインの魅力を際立たせる効果が、過去の作品にはありました。しかし、今作では、物語の構造とテーマを前面に押し出してしまった事によりヒロインの魅力が押し潰されてしまい、主人公を否定する効果が生み出したパワーを受け取るべき、本来の行き場を失ってしまったのです。主人公とヒロインへの感情移入も、キャラ萌えも、テーマへの共感もできないということ…それはつまり、ギャルゲー云々以前に、ゲームとしての破綻を意味します。

 家庭用ギャルゲーのオリジナルで頑張っている数少ないブランドのKIDだからこそ、その失望はより大きなものとなりました。ギャルゲーが小手先の進化の果てに辿り着いてしまった、自らを滅ぼしかねない深刻な問題を顕著に表しているこの作品を、せめて反面教師として今後の作品作りに役立てていただきたいものです。

First written : 2003/01/13
Last update : 2003/10/21


「想い出にかわる君」 怒りのキャラクター選評

※この選評はすべて重度のネタバレと憤慨で構成されています。ゲームの楽しみを致命的に損なう恐れがありますので、ゲームをすべてクリアした方、もしくは多少のネタバレも読み流せる方のみ、白文字部分を選択反転させてお読みください。なお、この注意を無視してネタバレ部分を読んでしまった場合、GM研は一切責任は取りかねますので、くれぐれもご注意ください。

荷嶋 音緒(かしまねお) CV:清水愛
一応、このゲームの準正ヒロイン…のはずです。トゥルーストーリーでの音緒エンドも用意されているくらいだし、正ヒロインのはずのカナタが逆ベクトルに暴走してしまうので、相対的に音緒ちゃんの双肩に、この作品の評価が掛かっていたのですが…ええ、音緒ちゃんは健気に頑張りましたよ。深歩ちゃんに嫉妬する余り、自作自演で「花の王子さま」のハンドルネームで掲示板の荒し行為に及んだりした、嫉妬深い「嫌な女の子」の部分も、カナタへの想いを引きずり続ける主人公の心を知りつつも、都合のいい女を演じようとした健気さも、そのすべてを含めて、こんなヒロイン像があってもいいと思いました。でも、その好意の対象であるべき主人公があまりにも情けないので、結局作品のすべてが台無しになってしまいました。音緒シナリオでの主人公の駄目行動はエンジン全開です。荷嶋姉妹がホームページを始めると、偽のハンドルネームを使ってDQN行動を連発。しかも、ついでに信くんに対してもネカマ行為を仕掛けて、「ネットって楽しいなぁ」などと言い出す始末… トゥルーストーリーでは、音緒ちゃんと半同棲生活を送りながら、カナタとの二股を続けて…頼むから、誰かアイツをどうにかしてくれ!と、ゲーム相手に真剣に殺意を抱いてしまいましたよ。君望の鳴海孝之を超える「キング・オブ・へたれ」の誕生です!(しかも、君望のように悩みや苦しみに意味があったわけじゃないし…)

荷嶋 深歩(かしまみふ) CV:白鳥由里
深歩ちゃんのシナリオは、途中までは荷嶋姉妹のシナリオとして進行するわけだが、なぜかこのルートでは、音緒ちゃんは深歩ちゃんに嫉妬の炎を燃やさないし、荒し騒動も何の説明も無いまま鎮静化しています。いやぁ、便利なものですねルート分岐って!(皮肉)深歩シナリオ自体は、この作品の中では(相対的に)一番まともだと思います。前向きで明るい車椅子の少女が、心の奥底に秘めた深い絶望…それを理解しようと四苦八苦する主人公、という構図は決して悪くはないと思います(恋愛モノとして向いているかどうかは別問題として)。しかし、音緒シナリオのように、初めての姉妹喧嘩の果てに納得づくで主人公への想いを諦めたのならともかく、何の説明もなしに音緒ちゃんが身を引いている事への違和感は拭えないし、最後の最後で自分のダメさ加減を棚に上げて、ネット論をぶち上げて深歩ちゃんを諭そうとする主人公の自覚の無さには、ほとほとあきれてしまいましたよ。無知は罪なんです。(しかも、荒し騒動は音緒シナリオの範疇の出来事であり、深歩シナリオのこの時点でなぜ主人公はネット論を展開できるのか、不思議ですね〜(第3視点を持つBWじゃあるまいし…))

鳴海 沙子(なるみいさこ) CV:川澄綾子
この手のゲームには「心を閉ざしたヒロイン」は付き物であり、徐々に心を縛る鎖を解きほぐしていくのが定石なのですが、沙子シナリオは一味も二味も違います(悪い意味で、ですが…)。全編を通して取り付く島もなく「氷の美女:沙子さん」に冷たくあしらわれ続けていたのに、最後の最後で哲学めいた押し問答の末に、なぜか主人公の愛の告白を受け入れて、突然むかしの可愛かった「幼馴染の沙子ちゃん」に豹変する急展開は、どう考えても納得できません。そもそも、主人公は最初は沙子の妹の那由多に幼馴染の面影を追っていたわけであり(いかに実の姉妹だからとは言え、かなり苦しい事実誤認だが)、でも本当の幼馴染が沙子だと判明すると、アッサリと那由多を捨てて沙子に鞍替えしようとする主人公の思考形態には、どうにもついていけません。昨日までラブラブ状態だった那由多よりも、そんなに「想い出の」とやらが大事なのかねぇ…?

北原 那由多(きたはらなゆた) CV:高橋美佳子
沙子との対立構造の面白さは確かにありました。前半で描かれるポップでフランクな那由多と、後半で描かれる那由多が抱えているドス黒い部分のギャップを垣間見る時は「ぞくぞく」とするものが多少なりとありましたが、主人公主観の恋愛観が災いして、「那由多か沙子か」という2択問題だけが強調されてしまい、主題が何がなにやら良く分からない状態になってしまいました。ああ、勿体無い…それにしても、まさか「空耳アワー」で告白とは…捻りが効き過ぎですよ、那由多さん!(しかも、その隠し撮りされた地下室ライブの現場に主人公は(カナタと)行っていたのに都合よく忘却しています。本当に便利ですね忘れっぽい性格って!(皮肉)そのくせ、沙子ちゃんとのことだけは良く覚えていて、その時もう一人仲良く遊んでいた女の子がいたことも都合よく忘れているんだから、始末に負えない)。告白の方法といい、ご都合主義の極地の設定といい、終わってみれば、なんとも開いた口がふさがらないシナリオになってしまいました。トホホ…

児玉 響(こだまひびき) CV:浅野真澄
バレバレの当たり屋まがいの行為で携帯電話を強引に買わされて(弁償させられて)、しかも毎晩解析不能の夢日記メールを送りつけられるという、ほとんどストーカーまがいのことをやられている状況を、むしろ進んで受け入れられる主人公は一体何者なんでしょう?(ある意味では大物なのかも)。響シナリオは、基本的に衝突と関係修復を延々と繰り返す展開ばかりであり、環ちゃんとの修羅場に陥った時も、「どうなるんだ!(わくわく)」と思っていたら場面転換した次の瞬間にはなぜか場が収まっていたりするし、「響は誰とでも寝る女だ」と周囲から悪い評判を聞かされた時も、そんな重大な事を何事もなかったかのようにアッサリと流してしまうし、終いには「電車を押すと早く着く気がする」と言って主人公も先頭車両で電車を押し始めるし…まぁ、ある意味お似合いのバカップルに染まっていった、ということにしておきましょう。この主人公のぶっ飛んだ思考形態についていけるプレイヤーは、よほどの大物かもしれません。

百瀬 環(ももせたまき) CV:沢城みゆき
他人に嫌われるのを極度に恐れるあまり、自己主張が極端に弱くなってしまった少女が自立する、という物語なのですが…(夏休み中とはいえ、修学旅行を抜け出して1ヶ月近く経過して、どうして大問題にならないのか不思議でならないが…)イライライラ…あまりにもスローモーな環ちゃんの喋り方に業を煮やして、常に連打状態でゲームをする破目になりました。そして宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」をいきなり暗唱朗読。ちょっと怖いです。電波さんにも程があります。しかも、バットエンドでは一晩雨に打たれて死んじゃうし…(雨に負けてるじゃん!)。対立構造の関係上、環シナリオは響シナリオと対を成す物のはずなのですが、終始響のペースで環シナリオも進んでしまい、環シナリオには響シナリオの単なる1分岐程度の存在感しかありませんでした。ずっと響のことを気にかけていたのに、最後の最後で何事もなかったように響を捨てて「環ちゃんラブ!」という思考に切り替えられる主人公は、一体何者なのでしょう?

黒須 カナタ(くろすかなた) CV:福井裕佳梨
一応、このゲームの正ヒロインのはずなのに、「True Story」という名が冠してあるにも関わらず、一番ヤル気が起きないというのはどういうことでしょうか? 異次元から聞こえてくるようなヤル気のない気だるい声を聴くたびに、どんどん気が滅入ります。他のシナリオでもフラリと現れては嫌なオーラを撒き散らして、本編ではその気があるのかないのかすら図りかねる思わせぶりな態度を取り続け…散々そんな冷め切った状態にプレイヤーを追い込んでおいて、「実は幼馴染でした」「実はライブで告白していた」なんて捲し立てられても、「だから、何?」としか思えません。「謎めいた女」も度が過ぎれば「ただのプッツン女」になってしまうという、悪い見本です。唯一の効果は、カナタの駄目っぷりのおかげで、音緒ちゃんの健気さが引き立ったということでしょうか?(正ヒロインがそんな立位置でしか評価できないというのも大いに問題なのだが…)。更なる謎として、なぜカナタのトゥルーエンドの歌が「唄:宮村優子」になっているでしょう?音緒トゥルーエンドでは、ちゃんと音緒役の清水愛さんが歌っているのに(しかも、宮村さんの歌でも最低の部類に入るクオリティの低さです)…ドタキャン?それとも、福井裕佳梨さんの歌が聞くに耐えないものだったのか? ともかく、悪い意味で伝説的なヒロインにはなりましたよ。それこそ、今すぐ「想い出に変えてしまいたい君」ですよ。金を返せとは言わない。私のゲームを見る目が無かっただけですから…でも、このゲームのために費やした時間は、返せるものならば返して欲しい。「メモオフ」というブランドを信じて、修羅場の合間を縫ってまでして遊んだあの時間を…