雲のむこう、約束の場所
アニメ原作・脚本・美術・監督:新海誠、 総作画監督:田澤潮
 SF・ドラマ  SF青春群像劇  劇場映画 
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「雲のむこう、約束の場所」とは?

 それは、もう一つの戦後の世界。津軽海峡を境にして南北に分断された日本。米軍統治下の青森の少年・藤沢浩紀と白川拓也は、2つのものに憧れていた。ひとつは同級生の少女:沢渡佐由理。もうひとつは、ユニオン占領下の北海道の地に、天空果てることなくそびえ立つ巨大な謎の塔だった。いつか自分達が作った飛行機であの塔に何があるのかこの目で見るんだ。二人の少年の純粋で漠然とした夢は、やがて少女と交わした大切な約束になっていった…だが、その夢は突然終わりを迎えた。中学三年の夏、佐由理は何も告げずにいなくなってしまった。二人は言いようのない虚脱感の中で飛行機作りを止めてしまい、それぞれ別の道を歩き始めた。あれから三年…青森に残り、平行世界の研究機関の下で「塔」の研究を続ける拓也。塔への思いを振り払うために離れた東京の地で、言い知れない心の孤独に押しつぶされそうになる浩紀…

 だが、二人の道は再び交わることになる。あの夏、突然居なくなってしまった佐由理は、あの日から原因不明の病により眠り続けているのだという…夢の中で何度も佐由理の孤独なSOSを目の当たりにしてきた浩紀は、いつか交わした彼女との約束を果たすために、僕達のあの飛行機…ヴェラシーラで塔に向かうことを決意する。たとえ、彼女が夢から目覚めることが、世界を壊してしまうことであろうとも…それが、「雲のむこう、約束の場所」のあらすじです。

新海氏初の長編映像作品で炸裂する、
光彩の寒暖と、陰影の静寂と、雲と青空のコントラストと、無機構造物が織り成す”ネオリアリズム”

 この作品を評する上で、新海誠というアニメーション監督の特殊性を抜きにして語ることはできません。2002年に発表された「ほしのこえ」でアニメ映像界に鮮烈なデビューを飾った新海氏。監督・脚本・作画・美術・編集・声優に至るまで、たったひとりで作り上げた25分間のこの作品は、幾多の賞を受賞し、DVDは国内でインディーズアニメでは異例の6万枚以上のセールスを記録、世界16ヶ国でリリースされるなど、全世界が注目する新しい才能として注目されることとなり、新海氏が始めて挑むフルサイズ劇場版アニメ「雲のむこう、約束の場所」への期待も否応なしに高まっていました。

 音楽には前作に引き続き天門氏を、作画監督には「笑顔」でもタッグを組んだ田澤潮を、美術には新たに丹治匠氏を迎え、「たったひとりのアニメ製作」という謳い文句はなくなったものの、今回もスタジオ製作のアニメとは一味違う形での新海アニメクオリティに挑戦しています。新海アニメの真骨頂と言えば、電車が通り過ぎていくのを利用した巧みな場面転換、無機構造物の隙間から差し込む光彩の寒暖で描く柔らかさと温かさ、その対となる陰影の濃淡が演出する心の翳り、空の広がりを表現する雲と青空のコントラスト…1時間半に渡って展開される、実写よりも美しい、さらに磨きの掛かった新海節”ネオリアリズム”に、終始圧倒されっぱなしでした。特に、電車関係の描き込みには鬼気迫るものが…

遠い昔、からえられなかった約束…
淡々と描かれる夢と現実の孤独に揺れる魂という痛切

 『世界と彼女との間で引き裂かれる、青き日々の想い。青春の夢、喪失そして再生…新海誠しか描けない青春の光がここにある』…多くの新海誠ファンが足を運んだ渋谷シネマライズでの劇場版を観て…私はとても複雑な心境になりました。アニメーションのクオリティには一点の疑いの余地もない。SF物としても魅力的な設定を自然な形で見せつつ上手く謎の中核を隠し、シーン構成もテーマの伝え方も見事の一言に尽きます。観終わった後に「イイもの見せてもろうた…」という充実感はありました。しかし、なんというか…どこか消化しきれないわだかまりが心に残っていました。ほしのこえでは観終わった後に泣き出す観客もいたそうですが、劇場を振り返ってみると、顔抑えて泣きそうになっている人は数人で、大多数は私と同じようにどうしたらいいのか分からない、そんな表情をしていました。

 スムーズなフェードインで始まる穏やかな少年時代を描いて観る者の郷愁を呼び起こし、平行世界や宇宙がみる夢という壮大なSF設定で知的好奇心を掻き立て、そして「夢と現実の孤独」をテーマにして、間接的に観る者の心の深い部分にまで踏み込んでいくわけですが…風景のように淡々と進むシーンと、流れ込んでくる大量の情報と、会話の端々にみられる抑揚の効いた詩的に洗練された情感に流されてしまって、ここぞ!という場面で泣きそびれてしまったような気がします。どうして、あの場面でビシッと感動的なセリフを言ってくれなかったのか?期待が大きくなりすぎていたのが悪かったのだろうか? その時はむしろ、不満ばかりが先に立っていました。

 ところが、いざレビューを書くために資料の再分析をしていると…不意に涙がこぼれました。淡々と描かれているように見えたシーンと紡がれた言葉は、あくまでも映画だから受け止めることのできるものであって、パーツとしてその中身を考え始めると、まったく別物の痛みを伴うものになってしまうのです。そして、劇場パンフレットの新海氏のインタビューを読んで、あのラストシーンでの構成にも納得できました。この感情が何に起因するものなのか、自分自身では理解することはできないかもしれません。だからこそ、考えるきっかけになりえるとも言えます。できれば、劇場版を観た後でゆっくりと考えて欲しい。そして、DVDなどになって家で観れるようになったら、是非もう一度ゆっくり観てみたい逸品です!

First written : 2004/11/28
Last update : 2004/12/25