AIR(TVアニメ版)
アニメ原作:Key/ビジュアルアーツ、制作:京都アニメーション
 TVアニメ  空と少女と絆の物語  DVD全6巻+summer編 
キャスト:川上とも子、久川綾 、西村ちなみ、ほか

「AIR(TVアニメ版)」とは?

 国崎往人は旅を続ける人形使いである。「法術」と呼ばれる不思議な力を用いて、道行く人々に芸を見せることで生きてきた。特にあてがある旅でもないが、彼は密かに探しているものがあった。幼い頃、母が繰り返し語ってくれた「今も空にいるという翼を持った少女」。ある夏の日、偶然立ち寄ることになった海沿いの小さな街で、彼は1人の少女:観鈴と出会う。それが全ての始まりだった… 観鈴が空の少女の夢を遡っていくほどに、ふたりの想いが近づくほどに蝕まれていく心と身体。空でただ一人悲しみの夢を見続ける少女と、いつの日にか救い出そうと想いを受け継いできた人形…1000年もの間何度も繰り返された来た、終わることのない悲しみの物語。それでも観鈴と往人はまっすぐに向き合って、そして誰も辿り着けなかったゴールへ…

 PCギャルゲー市場では異例の30万本以上の大ヒット作となり、5年の時を経てアニメ化される根強い人気を誇る名作である「AIR」。だが、名作と呼ばれるがゆえにファンの期待は大きく厳しいものであり、「劇場版AIR」は集中砲火を浴びて火達磨になってしまい… そんな優しくも厳しいファン心理をも乗り越えて絶賛されているのが、今回ご紹介する「TVアニメ版AIR」なのです。

ゲーム版のすべてを描き出した奇跡の構成

 Dearm編→Summer編→Air編という複雑な時制構造と、往人→そらという多面的な主観視点と、観鈴・佳乃・美凪・神奈、ヒロインそれぞれに託されたテーマ… 原作ゲームであるAIRが未だに比類なき名作と謳われる所以は、まさにそこにあるのですが、その本質をゲーム以外の手法で表現することは不可能だと私は思っていました。「劇場版AIR」が、構想段階での非常に野心的な準備稿とはかけ離れたテーマを切り抜いて時間内で上手くまとめただけの構成にせざるを得ず、ファンからの大きな反感を買ったことはまだ記憶に新しい。割り切ることもプロの仕事であり、そういう意味では決してレベルの低い内容ではないと理屈では理解していても、行き場を失った気持ちと、空に届かなかった願いは、ずっとモヤが掛かったように心を曇らせていました。

 しかし、DVDになるのを待って鑑賞したTV版のAIRで、そのモヤモヤはすべて吹き飛んでしまいました。あくまでも原作を忠実に再現しつつも、より魅力的にしようという意図が見て取れる鬼気迫る作画と演出。12話という枠は劇場版に比れば遥かに大きいが、だが、AIRという物語の全てを語るには時間枠だけではまだ足りない。それをゲームのルート概念ではなく、佳乃→美凪→神奈を1本の流れとして、「観る者の想い」を丁寧に積み重ねた上で、観鈴と最後まで向き合っていける「強さ」をくれた見事な構成は、奇跡のような輝きを放っています。

夏の終わりと始まり…悲しみを解き放つ空の蒼

 原作つきのアニメが原作に忠実であることは大前提として必要なことなど思いますが、そこにどんな+αを盛り込むかによって、作品の評価は大きく左右されます。オリジナル要素を盛り込むのも、徹底的に忠実さを追求するのも、選択肢としては等価であるべきなのですが、指針が中途半端なアニメ作品が多いため、原作至上主義と擁護論による歪んだ堂々巡りが生まれてしまっているのが実情です。そんな中にあって、TVアニメ版のAIRは、ぶっちゃけゲーム本編をしなくてもいいくらい、原作のすべての要素を描き切ってくれました。ゲームをやっていた方がより深く楽しめるのは、かつて抱いた熱い想いと同じモノを感じることができるからであり、この物語が持つ本質を考える上では、ゲームであろうとアニメであろうと、想いは同じ場所に辿り着けるのだと思います。

 AIRは決してハッピーエンドの物語ではありません。しかし、長い長い悲しみの終わりはひとつの始まりでもある。往人と観鈴に「さようなら」と言った少年と少女がそうであり、そして、最後まで観鈴を見守った晴子が、すべてを解き放ってそらに願いを託したように… 空の蒼はどこまでも続いて行く悲しみの蒼ではなく、彼女が待つ大気の下まで続いて行く始まりの蒼なのだから… 原作ゲームのファンだけでなく、ゲームのアニメ化に否定的な考えを持っている方にも是非オススメしたい、圧倒的なクオリティとパワーを持った逸品です。

First written : 2005/12/01