monthly Doujin Review

トゥルーラブは世界いちぃぃぃ!
同人誌サークル : はプロン団
 web連載  トゥルーラブストーリー  1、234567巻 
作者 : エニシング大神

(C)2000 エニシング大神

「セゲいち」「TLS」とは?

 今回紹介する同人誌には、ふたつの元ネタがあります。ひとつは、Dreamcastマガジンの漫画「セガのゲームは世界いちぃぃぃ!」(以下、セゲいち)。もうひとつはPlaystation用恋愛アドベンチャーゲーム「トゥルーラブ・ストーリー」(以下、TLS)です。セゲいちの漫画ネタをベースに、TLSのキャラクターを使ったのが本作品「トゥルーラブは世界いちぃぃぃ!」(以下、トラいち」)なのです。

 パロディの基本として「ネタの融合」は決して珍しいことではありませんが、同人誌においても最もポピュラーな手法です。しかし、同人誌の基本は「原作に忠実なif」であり、他のネタを無闇に持ち込むと元ネタとなる作品世界のイメージを壊しかねないのです。使ってもせいぜい小ネタ程度にとどめるものがほとんどです。

 しかし、「セガ」と「TLS」は素材として非常に近い性質を持っています。両者とも日陰者であり、商売が下手で、濃いファン層がいる。その縁(えにし)は他人とは思えないものである。ときメモに勝てないTLS。何をやっても上手くいかないセガ… 自嘲と自虐とやるせなさを笑い飛ばす「セゲいち」の芸風は、正に格好の受け皿だったのです。

逆説のラブレター

 先程は「自嘲と自虐とやるせなさ」と書きましたが、それは「セゲいち」の著者:サムシング吉松先生にとっても、「トラいち」の著者:エニシング大神氏にとっても本意ではありません。いや、表面上でも口にも出しても自嘲と自虐とやるせなさを連呼するけど、それはひとえに、著者が元ネタ(セガ or TLS)を愛して止まないからに他なりません! これは「逆説のラブレター」なのです!

 アスキーの販売戦略の不手際、改善される気配の見えないメーカーサイドのサポート、更新されない公式ホームページ、不振を極める販売本数、停止に追い込まれるファンクラブ… 一介のTLファンにはどうすることも出来ない様々な葛藤、やり場の無い怒り… 怒ってもしょうがないなら、せめて笑いにしてしまおう。自虐でもいいじゃないか! でも、それは憎いからじゃない。好きだから書くのだ。嫌いだったら興味すら抱かないだろう。これは逆説のラブレター。同じ瞳をした同志と想いを分かち合うための、熱烈爆風ラヴレターなのです!

パロディとオリジナリティの融合

 「パロディとオリジナリティの融合」は本来同人誌の基本理念でありながら、これは決して簡単なことではない。いっそのことゼロからオリジナル作品を書くほうが楽かもしれない。でも、完全なオリジナルというものはありえない。誰もが意識はしていなくても、何かしらの影響を受けて生きているのだから。ならば、肩肘張らずに開き直ってしまえばいい。それが同人誌という自由なフィールドの特権なのだから。

 「トラいち」はパロディとオリジナリティが見事に融合した稀有な例です。元ネタを理解する人にとって、これ以上の贅沢はないとも言えます。日陰者の、日陰者による、日陰者のための世界。陽の当たる世界からは決して見えない隠微な美しさが、そこにはある。それは、そこに生きる人間だけが知ることのできる美しさなのです。価値観を共有する喜び、それは何物にも勝る。

 一冊の同人誌が結びつける絆… 同人誌にはそのような一面もあるということを、ご理解いただければ幸いです。

※画像使用許諾:2001/07/17