時をかける少女
アニメ原作:筒井康隆(角川文庫刊)、アニメ公式HP
 ドラマ・青春  時をかける少女  劇場版アニメ 
監督:細田守、 キャラクターデザイン:貞本義行

アニメ「時をかける少女」とは?

 元気爆発娘:紺野真琴は高校二年生。秀才の功介とお調子者の千昭の三人で、いつもバカなことをして笑って過ごすのが好きだった。三人だけで野球をするのが好きだった。そんなある日、真琴は理科準備室で転倒した際に不思議な経験をする。その日の帰り道、急な坂道で壊れた自転車のブレーキ。踏切に激突して自転車ごと線路に投げ出された瞬間…わたし、死ぬんだ…そう思った次の瞬間、真琴は何事も無かったように踏切の前に立っていた。

 真琴は「魔女おばさん」と呼んでいる叔母の和子(原作の主人公:芳山和子)にこの不思議な体験を相談してみると、それはタイムリープ(時間跳躍)だと教えられる。その時は半信半疑だった真琴だが、やがてタイムリープのコツを掴み始める。妹に食べられてしまったプリンを先に食べ、小テストで満点を取り、カラオケは何時間でも歌い放題、焼肉は何度でも食べ放題! 些細なことだがタイムリープの恩恵を存分に満喫していた真琴だったが、功介が後輩から告白されたことをきっかけとして、三人の友情関係は大きく揺れ始めた。好きという気持ちが分からなくて、「無かったこと」にしてしまった千昭の真琴への告白。タイムリープを駆使して周囲の恋を成就させようと奔走する真琴。だが、修正に修正を重ねて丸く収めたはずの時間は、とんでもない悲劇を誘発してしまう。使用回数ゼロ…もう戻せない、戻らない時間…激しい悔恨の果てに、真琴はタイムリープの本当の意味を知ることとなる。それがアニメ「時をかける少女」のあらすじです。

時を超えて受け継がれる、想いの物語

 筒井康隆原作の小説版誕生から40年。「時をかける少女」は、その時々の世情に合わせて何度も映画化やドラマ化されてリメイクされてきた作品です。年配の方にとっては、原田知世主演:大林宣彦監督の映画版が、その代名詞的な存在として、有名すぎるほど有名でしょう。しかし、意外にもアニメ化は今回が初めてのことであり、歴代シリーズ中でも最も大胆な脚色を加えて、新たなる「時かけ」像を確立し、マイナー配給ながら現代の若者から絶大な支持を受けた作品、それが、アニメ「時をかける少女」なのです。

 このアニメ版は、原作の20年後という設定です。原作の主人公:芳山和子は30代後半の未婚の女性であり、今作の主人公であり2代目ヒロインともいえる真琴の叔母にあたる人物として登場します。かつて経験し過ぎ去った日々への想いが見え隠れする和子の言葉は、登場回数は少ないものの強く印象に残りました。男二人女一人の友情以上・恋愛未満の関係にも原作との確かな繋がりを感じます。 現代風に様々なアレンジがされていますが、時を越えて受け継がれていく「想い」の物語である「本質」は、昔から変わらずそこにありました。恋愛に悩みラベンダーの香りをタイムリープの象徴としていた原作とは異なり、文字通り助走をつけてジャンプして時間を跳び越えていく真琴のタイムリープは、転がって頭をぶつけるもので、ロマンチックさやスマートさとは程遠いものですが、それこそが「真琴らしさ」であり、二代目「時かけ」ヒロインとして・現代の強い女性観を象徴しているようにも感じます。二度とは戻らないこの時間が教えてくれたその意味を…待つのではなく、追いかけていくんだと誓った未来との約束は…特別で大切な思い出として、観る者の心に深く焼付いたことだと思います。

ずっと、特別で、大切で…またこの季節がめぐって

 このアニメの何が素晴らしいかと言えば、まず映画の前に配給会社の宣伝が一切入らないことです。いきなり本編が始まります。これは地味ですが重要なポイントです。そして、キャラクターの表情と動作も周囲もとにかく良く動く。主人公の真琴が元気爆発娘だということもあって、その魅力を描くために動きと感情と場面が合致した演出が徹底されている。序盤で些細なことで繰り返されるタイムリープに客席からは笑いが起こる。中盤でもつれた運命をどうにかしようと繰り返されるタイムリープの変化と時間軸の設定に引き込まれる。そして、最後のタイムリープ…もう戻せない時間が生んだ悲劇の瞬間にぎゅっと心が締め付けられた。そして、それでも想いを伝えたいと願った最後のタイムリープの瞬間に…フラッシュバックする、積み重ねてきた3人の日々の思い出に心が震えた。そして最後の言葉に…泣きそうになりました。

 「起笑転泣」とでも言うべきこの青春群像劇に、私は時が過ぎることさえ忘れてしまいました。誰が書いたキャッチコピーだったか忘れましたが、「笑った、泣いた」という言葉どおりのアニメでした。近年の取り違えた恋愛至上主義の「爽やかさ」ではなく、優しくて気持ちのいい「爽やかさ」のある作品だったと思います。現代風にアレンジしつつも、どこか懐かしくて温かくて穏やかで甘酸っぱくて…原作の根底にある一番大切な想いの強さは、何ら変わらずそこにありました。むしろ、アニメだからこそ限られた時間の中で、誰もが持つ憧憬にも似た原体験を始まりから終わりまで描くことができ、観客として距離を置きすぎず他人事ではなく感情移入させて主題を伝え切ることができたようにも感じます。オトナになってしまった自分が、まだ素直に笑って泣けたということ。それはちょっとした感動ものでした。ずっと特別で、大切で…夏が来るたびに思い出したくなる逸品です。

First written : 2006/09/14