NHKにようこそ!
漫画原作:滝本竜彦 漫画:大岩ケンヂ
 オタク・ドラマ  ひきこもりネガティブ漫画  1〜6巻 
連載:月刊少年エース

「NHKにようこそ!」とは?

 佐佐藤達弘(22)、大学中退2年目の春---ついに親からの仕送りは幕を下ろし貯金も底を尽いた。彼は社会問題最先端を爆走中の「ひきこもり」で、籠もりに籠もること実に4年目。もう1年近く他人と口をきいてなくて、致命的にコミュニケーションが取れないので働くこともできず…いくら絶望しても怖くて死ぬこともできず、合法ドラックで気を紛らわせては、ハイクオリティなアニメで人々のオタク魂に火をつけひきこもりを生み出したのは、NHK(日本ひきこもり協会)の陰謀だと妄想するばかりの日々…

 そんなある日、宗教勧誘に訪れた中年女性についてきていた少女:中原岬と、アパートの隣に越してきた高校時代の後輩:山崎と出会ったことにより、彼の脱・ひきこもりへの挑戦…いや、迷走・暴走・壊走が始まってしまったのです。そこに救いなどない!青春を後ろ向きで全力で駆け抜ける、ノンストップひきこもりアクション、それが「NHKにようこそ!」なのです。(当然ながら、NHK非公認です)

そこに救いなどない!青春を後ろ向きに駆け抜けろ!

 岬ちゃんの「プロジェクト」と称する脱ひきこもりの実験に振り回され、山崎とのエロゲー作りのためオタクの世界の深みにはまっていくうちに、佐藤君の重度のひきこもり症状は様々な合併症を引き起こしていきます。山崎と作るゲームの資料のはずだったロリコン画像にはまって小学生を盗撮、マーケティングのつもりが秋葉原で萌え商品にはまり大散在、自殺ネットオフ会にまきこまれて成り行きで死にそうになり、ネットゲームにはまってしまいネット廃人になり、終いにはマルチ商法の甘い言葉に引っ掛かって100万円もの借金を抱えてしまい…

 安易に希望を持たせるようなマネをするから、余計に絶望が深まるのに、なぜ野良犬にエサをあげるようなことをするのか?居心地のいい夢はただの逃避でしかない。なぜ現実を直視しないんだよ!…他でもない当事者の彼ら自身の口で語られるその言葉はとてつもなく痛いけど重みがある。しかし、不思議なことに、その最も痛々しい部分がある種のギャグとして成立しているのだとも思います。

まだ大丈夫…このネガティブさを直視できるということ

 同じようにオタクの世界の実態を描いた作品として「げんしけん」がありますが、あの痛さ加減は少々照れくさい程度のものです。しかし、本作品の痛さ加減はげんんしけんの比ではなく、同じオタク趣味を持つ者たちにとっては、直視し得ないほど痛烈なものです。このネガティブさを直視してなお微妙に面白いと思えるのは、まだ自分は大丈夫だと安心できるからなのかも知れません。どんなにダメな人間でも、路傍の石でも野良犬でもなく、血と肉を持った同じ人間だから…どんなに落ち込んで苦しんでも、この馬鹿馬鹿しい日常に帰ってくるのだから…

 おそらく、この作品のテーマは小説やドラマでは伝わらない。原作となっている小説版とは違い、漫画版ではテンポの良いギャグを交えつつ描かれているからこそ、どんなに深刻な状況でも読者は心の余裕を失わないで、テーマの肝になる部分を見失わないのです。漫画に娯楽のみを求める方にはオススメできませんが、漫画であることとに意味を求める方には、是非読んで見て欲しい一冊です。

First written : 2005/06/15
Last update : 2005/08/18