魔法少女リリカルなのは
アニメ原作:都築真紀/ivory
 ファンタジー  勇気と想いの魔法少女物語  DVD全5巻 
キャスト:田村ゆかり、水樹奈々、ほか

「魔法少女リリカルなのは」とは?

 それは、平凡な小学三年生だったはずの私「高町なのは」に訪れた小さな事件。ひょんなきっかけで出逢ったフェレット=異世界の少年:ユーノ・スクライア。渡されたのは真紅の宝石:レイジングハート。手にしたのは魔法の力。なのはは突然の事態に戸惑いつつも持ち前の明るさで、世界に散らばってしまった異世界の遺産(ロストロギア)「ジュエルシード」の探索と封印の手伝いを始めた。日常生活と魔法少女の二重生活。最初はただのお手伝いのつもりだった。自分のせいで誰かに迷惑をかけるのは、とても辛いことだから…これはきっと「自分にしかできなこと」だから… だが、もうひとりの魔導師:フェイト・テスタロッサの登場により、なのはは自分の意志で数奇な運命に立ち向かっていくことを決意する。信じたのは勇気の心。願ったのは小さな想いが届くこと。信じた想いが強いほど、譲れない想いは強くなって。だけど、伝えあう事を諦めたくないから…つながる想いと、始まる物語。それが、「魔法少女リリカルなのは」なのです。

 ちなみに、本作は今も根強い人気を誇るivoryの「とらいあんぐるハート」シリーズの世界観を共有するものであり、番外編「とらいあんぐるハート3 リリカルおもちゃ箱」で活躍したなのはを主役にしてアニメ化した、という流れで生まれた作品でもあるので、興味ある方はそちらも併せてお楽しみ下さい。

願ったのは、小さな想いが届くこと。
本当の自分を始めるために…

 魔法少女モノと言えば、過剰な演出の変身シーンや正義・友情・勝利などのお約束が通例になっていますが、その基本要素はなのはでも、すべて高いレベルで盛り込まれていますが、ストレートだけど安易ではない、というところが、この作品が他の作品と決定的に違うところだと思います。正しいとか間違っているとかは関係ない。胸に宿った自分の魔法をただ信じるだけ。立ち止まらずに駆け抜けた足跡は、きっとこれからの私につながっていくはずだから… 大切な家族だからこそ、大切な友達だからこそ、本当のことは言えない。心配かけたくないし、嫌われたくない。でもそこが私の帰ってくる場所だから頑張れるし、あの子の笑顔を見たいから…触れ合うことの出来ない想いも、届かない言葉も、願いも悲しみも、わけあいたいと思ったから… 「ただ捨てればいいってわけじゃないよね。逃げればいいってわけじゃ、もっとない! わたしたちのすべてはまだ始まってもいない。本当の自分を始めるために…」そう言ってフェイトに最初で最後の本気の勝負を挑んだなのはの姿は、「萌え」を超えた「凛々しさ」にぐっと来るものがありますよ。

 この作品を更に魅力的にしているのは、物語の端々のなんでもない言葉たちと、さりげないセリフに込められた想いの強さにあると思います。特に、オープニング前のあらすじ語りのフレーズの完成度の高さには目を見張るものがあります。「手渡されたのは赤い宝石」→「受け取ったのは勇気の心」→「信じたのは勇気の心」、というように、わずか数秒間に凝縮され反復効果で少しずつ変わって行く固定フレーズには、なのはの成長がよく現れています。フェイト役の水樹奈々作詞による主題歌「innosent starter」も、単体で聴くとアニソンらしからぬイメージがありましたが、なのはを知れば知るほどこの曲以外には考えられない!と思うようになりました。そういう総合的なレベルの高さが、なのはを名作たらしめているのでしょう。知名度が低すぎるのが残念ですが…

想いを照らす小さな光はきっと心の中にある。
胸に宿った自分の魔法をただ信じて…

 「魔法少女」というストレートすぎるタイトルは、一般的な意味での「魔法少女モノ」という安易な先入観を与えやすいし、王道を往く設定はごく一部の表層の要素だけを切り取っても、この作品が持つ本質である「想いの強さ」を伝えることはとても難しいと思います。フェイトが母にどんなに酷い仕打ちをされても、母の願いを叶えようとして、母の想いが向けられているのが自分ではないと知って心が壊れても、最後まで自分に微笑んでくれなくても、まっすぐに向き合って手を差し伸べた… 何度も何度も出会って戦って、そして、何度も何度も自分の名前を呼んでくれたあの子がいてくれるから…想いを照らす小さな光はきっと心の中にある。想いが壊れても、願いが遠くても、ずっと側にあった優しさを忘れないで。支えてくれた心があって、あなたの笑顔を待ってる人が居る。想いを込めて、願いをかけて…胸に宿った自分の魔法をただ信じて…

 その強い想いの言葉と、言葉にできない・言葉にしなくても伝わる本当の気持ち。レビュアーの私がこんなことを言うのは問題発言かもしれませんが、この物語に比較論を持ち出したり、言葉でだけで語ることは無粋なことだとさえ思います。先入観を持たずにまっすぐに感じて欲しい、絶対の自信を持ってオススメしたい逸品です。

First written : 2005/11/24