賭博破戒録カイジ
漫画作者:福本伸行
 ギャンブル  サバイバルギャンブル漫画  全13巻 
連載:週刊ヤングマガジン

「賭博破戒録カイジ」とは?

 オリジナルギャンブル「限定ジャンケン」と「Eカード」を生み出し、ギャンブル漫画の金字塔と呼ばれる「賭博黙示録カイジ」でしたが、最後の最後で帝愛グループの兵頭会長とのギャンブルにカイジは破れてしまい、Eカードで得た2000万もの大金も左手の指も失って、1000万近い借金だけが残ってしまった。もはや金利さえも払うこともできず、逃亡者同然の生活の末に、カイジは遠藤金融の遠藤に、新たなギャンブルの紹介を求めるが、帝愛ルールに3度目はなく薬で眠らされてしまう。気がつけば、そこはどことも知れぬ地中の底の底。熱気と騒音、粉塵、悪臭、不衛生、あまりにも劣悪な環境下での強制労働…文字通りの地の獄だった。筆舌に尽くし難い重労働を課されて、1日で得られるのは、わずか実質350円。借金完遂までは約15年…希望さえ見出せぬ圧倒的な絶望的状況から始まる新章、それが「賭博破戒録カイジ」です。

 新章「欲望の沼」では、以前のシリーズのような新種のギャンブルではなく、チンチロリンとパチンコという、あまりにも一般的で身近なギャンブルを取り扱っていますが、福本伸行マジックに掛かれば、たちまち思いもしなかった手法で必勝不敗のイカサマギャンブルへと進化してしまいます。そして、そのイカサマを看破した上で、バカげている…だが天才的な手段で逆用して、目も眩む大勝利を手繰り寄せるカルタシス的な快感は、前作以上です!

バカげている…だが、天才的だ!

 これは福本伸行マンガのすべてに共通して言えることですが、福本伸行マンガでのイカサマというものは、ただ単にギャンブルに仕組まれたトリックではなく、甘い言葉で獲物をその気にさせて誘い出して、ほどほどに勝ちの味を覚えさせて、引くに引けない状況を作り出した上で、ここぞ!という場面で致命傷を与えるまでの、巧妙な心理的な駆け引きで搦め捕っていく、そのすべての過程を指しています。ビール1本奢った瞬間から、作戦は始まっているのです。奸智に長けた蛇の如く、心の隙間に忍び込む悪鬼の如く、弱者を食い物にして金を搾り取る悪党を倒すのは、当然ながら一筋縄では行きません。悪党を倒し得るのは、それ以上の悪党だけなのですから…

 しかし、ただで負けて終わらないのが、ただ食い物にされるだけの弱者とカイジとの決定的な違いです。地の底に堕ちても、決して牙を失わない。奴らが構築した常勝不敗のシステムを使って積もりに積もらせた驕りの中に感じた、ほんのわずかな違和感を手掛かりにしてイカサマの手口を看破し、身を削り撒き餌として挑発し言質を取ってイカサマを逆用して、ただ一度の機会で壊滅的なダメージを与える。それがカイジにおける、勝つために積み上げられた論理(ロジック)です。しかし、その最強の論理をもってしても通じない難攻不落のイカサマ、それが1玉4000円の千倍台、大当たり約7億円のパチンコ台、通称「沼」なのです。

幾重にも張り巡らされた”勝つための理”を超えた偶機

 何百人もの人間を破滅させてきた「沼」は、3重のイカサマによって完璧な防壁を誇っていました。まず、ガチガチに固められた釘の森を抜けることさえ至難。そして、クルーンの前に立ち塞がる役物は店側によって遠隔操作されており、クルーンに到達したとしても「絶対に3段目の当りには入らない」仕掛けが施してあるのです。たとえイカサマの種が分かったとしても、台に直接細工することが出来ない以上どうしようもない…はずなのですが、カイジはまたしても、バカげている…だか天才的な、読者の誰もが想像し得ない「あっと驚く」手段で次々とイカサマを無力化していきます。伏線として幾重にも張り巡らされてきた”勝つための理”が、ロジックとして炸裂する瞬間の快感には、何度読んでもゾクゾクさせられます。

 詰むしかない将棋だ。しかし、それでも、あと一歩が届かないもどかしさ。イカサマvsイカサマ破り。誰もが想定していない常軌を逸した不測の事態の中では、”勝つための理”を超えた偶機…人が生まれながらにして持つ天運というものが必要なのかもしれません。強運なんかじゃなくていい。奇跡もいらない…平運っ…!ごく普通の現象、確率を呼び込むために…二転三転した戦いの果てに、ついに掴んだ大勝利・至福の時…その快感は筆舌に尽くし難いものがありました。晴れて借金地獄から解き放たれ、開き示されたカイジの未来。いつか来るであろう宿敵:兵頭会長と再戦する新章が、今からとても楽しみです。

First written : 2004/06/04
Last update : 2004/08/20