Remember11 -the age of infinity-
PS2製作 : KID   2004年3月18日発売
 推理・SF  サスペンスアドベンチャー  32時間 
 ディレクター:中澤工   キャラデザ:左

「Remember11 -the age of infinity-」とは?

 鳩鳴館女子大学で犯罪心理学を学んでいた主人公「冬川こころ」は、阿波墨市立病院無差別殺傷事件で12人を殺害しながら、解離性同一性障害(DID)と診断されたため、罰せられることなく隔離保護されている「犬伏景子」に面会するために、稚内行きの小型旅客機HAL18便に搭乗していた。しかし、乱気流に巻き込まれて飛行機は冬深い山中に墜落してしまう。奇跡的に生き残ったのは、31名の乗客のうちわずか4名。黄泉木聖司、黛鈴、楠田ゆに、そしてこころの4人は、避難小屋で救助を待つのだが…こころには奇妙な現象が起きていた。目を覚ますと、そこは見たことの無い建物で、しかも自分の体は男のものになっていたのです! 信じ難いことだが、「優希堂悟」と呼ばれる人間と冬川こころとの間で、互いの人格が時間と空間を超えて入れ替わってしまう「人格交換」という不可解な現象が起きているとしか考えられない。一度も会ったことがないし会えるはずもない相手だが、この極限状態では誰よりも信頼できる一心同体の相棒である。片や燃料も食料も尽きて雪山の寒さという死神が忍び寄る山小屋、片や正体不明の殺人鬼の恐怖に怯える隔離施設。もう一人の主人公「優希堂悟」とともに、人格交換という現象を手掛かりにして全ての謎を解き明かし、この絶体絶命の極限状態と無限ループからの生還を試みる。それがSFサスペンスアドベンチャーゲームinfinityシリーズの最新作「Remember11」なのです!

ワタシを殺す、記憶の迷路

 頻発する人格交換は「ザッピング」とも解釈できますが、実際には「こころ」→「悟」の順番でしか謎を解明していくことはできない構造になっているため、この効果はむしろ謎を巧妙に隠すためにあると言えます。しかし、その効果を実感するためには、「こころ」編での行動を忘れないうちに、一気に「悟」編をクリアしなくてはならないため、わずかでもプレー間隔を空けてしまうと、折角の効果が台無しになってしまいます。私がこのゲームを異例の短期間でクリアしたのには、そういう事情もあるわけです。もっとも、それ以上に「今ここで中断したら、先が気になって眠れやしない」という好奇心を刺激するだけの強烈なパワーがこのシナリオにはある、という前提条件があったわけなんですけどね。

 目まぐるしく入れ替わる意識と状況と謎によって、遊び手の思考回路はスパークしっぱなしだし、死への恐怖の連続でキャラクターたちの精神もボロボロです。そうして遊び手と登場人物を振り回し続けて極限状態に追い込むことで、正常な思考を許さず、断片的に与えられる謎をミスリードさせる構成の巧みさがあるからこそ、与える情報のバランスを計算し尽くし、遊び手と登場人物をまったく同じレベルで理解させる説得力があるからこそ、最後の最後の大ドンデン返しで謎が明かされる、このinfinityシリーズ特有の快感がより一層引き立つのです。

読み手の解釈任せるというスタンスのゲームにおける是否

 これだけは断っておきますが、このゲームはギャルゲーではありません。infinityシリーズの「Never7」には明確な恋愛対象としての構造があったし、「Ever17」はシナリオ上の恋愛に選択要素はないものの、シナリオ構造としてギャルゲー構造は残っていました(そのギャルゲー構造を巧みに利用して騙し切ったからこそ、Ever17は名作になったのですが)。しかし、Remember11は構造自体がまったく違うのです。前作「Ever17 -the out of infinity-」があまりにも完璧な作品であたったため、本作はどうしても比較評価されてしまうのですが、しかし、狙っている路線が違うので単純に比較する事はできません。

 KIDの中澤さんが構築した「11」にまつわる様々なトリック・設定・遊び心、そのすべてを心ゆくまで堪能できたわけですが…最後の最後、理論上のグッドエンドに到達した私の心は、残念ながら晴れやかなものではありませんでした。大きな疑問符を頭の上に乗っけたまま、大きな謎ととんでもない場面を残したまま終わってしまったのです。あまりにもネタバレなのでここには書けませんけど…EDリストをどんなに探してみても、どこにも「True Story」みたいなものは存在しないようですし…この生殺し状態をどうしろと言うんでしょう?

 読み手の解釈に任せるという表現手法の効果は認めます。すべてを語り尽くす自己満足ではなく、遊び手に想像の余地を認める懐の広さも、名作のひとつの条件だと思います。しかし!最短でも20時間以上をかけてやっと辿り着いたエピローグで、感動することも安堵することも許されず、新たな解けない謎と恐怖を突きつけるというのは…シナリオ作品の構造としては美しいかもしれないけど、ゲームというエンターテイメントの構造としては問題があると思います。大団円と思って油断しきっていた遊び手を、崖から突き落とすようなことをしておいて、公式なフォローは何もないんですから…私個人としては、たとえ甘いと言われようとも、ハッピーエンドが掴み取れないようなゲームには意味がないと思っています。少なくとも、それが選択肢型のゲームであり、登場人物がもがき苦しんだ先に成し遂げようとしたものがある限り、いかなる不可能も可能になる結末を用意しなくてはならない。そして、その結末に説得力を持たせるための前提条件を演出するのが、ゲームという娯楽の面白さの本質だと思っています。

 しかし、少なくとも私は、この「結末」のみによって、このゲームの「過程」のすへての価値を否定する気は毛頭ありません。このゲームは、紛れも無く超一級品のSFサスペンスです。でも、だからこそ、素直に拍手して絶賛評価することが許されなかったこと、それがとても残念でならないのです…「Never7 -the end of infinity-」のような改訂完全版の発売を強く希望します!

First written : 2004/04/28