カンブリアンQTS 〜化石になっても〜
PS2製作:グローバル・A・エンタテイメント
 育成・恋愛  古代生物育成恋愛SLG  26時間 
開発:TENKY キャラクター原案:中北晃二
ゲームコンセプト・プロデューサー:Andy山本

「カンブリアンQTS(キューティーズ)」とは?

 恐竜が出現するより遙か昔…今から約5億3000年前、地球における生命には劇的な進化の瞬間が訪れていた。後に「カンブリアン・エクスプロージョン」と呼ばれる爆発的な進化によって、生命は初めて生物としての活動を始め高度な文明社会を形成するにいたるも…わずか1000万年でカンブリア生物たちは絶滅の刻を迎え、地球上から姿を消してしまった…化石として古代の地層にかすかな痕跡だけを残して…ところが、2001年に南太平洋で発見されたカンブリア生物の化石から、卵を孵化させることに成功したことで、カンブリア生物に対する認識は大きく変わることになった。カンブリアン生物たちは、特別な海水の入った水槽に入れて育てることで、卵から孵り成長するにつれて、幼虫体→幼生体(プチ人型)となり会話ができるようになり、やがては等身大の人間型(ヒューマンフォーム)になって飼い主と共同生活を送ることが出来るようになるのです。愛情を持って接してやると、QTSたちは飼い主のことをマスターと呼び、とても慕ってくれるようになります。そして、そのあまりの愛くるしさから、それらは“カンブリアンQTS(キューティーズ)”と名づけられ、人間の良き友人(ペット)として、共に生きることとなりました。

 ある日、主人公の星群(ほしむら)サクジが祖父の遺品を整理していた時、なにやら大切に保管されていた箱から奇妙な化石を見つける。すると、突然現れた変な鼻の老人が化石をハンマーで叩き割り、勝手にサクジの部屋に上がりこんで水槽のセッティングをして、化石から取り出した卵を水槽に入れてしまう。戸惑うサクジを他所にQTSの王族「アロマロカリス種」の発見に狂喜乱舞する博士に「今ここに小さな生命が新たな活動を始めようとしている、…それをチミにゆだねよう。」と、うまく言いくるめられてしまい、成り行きでQTSを育てる事になってしまった主人公の、ちょっとドキドキ、かなりドタバタな生活が始まる…これが、「カンブリアンQTS(キューティーズ)」のあらすじです。

小さな触れあい大きな絆

 ゲーム全体の流れは、QTSの育成パートを進めていくことでシナリオパートが進んでいくでいくスタイルになっています。QTSの育成パートは、水質・水温・水槽の汚れなどをこまめにチェックしたり、水槽の浄化設備を取り替えたり、水草やオブジェなどの模様替えをしたりできて、本物の熱帯魚を飼うような本格的なものとなっています。QTSが卵のうちは、水槽の管理をしながら孵化するをボーっと待つだけだし、幼虫体になっても新しくできることは食事を与えるくらいしかありませんが、幼生体に変化してプチ人間型になってからは、これがもう可愛くて仕方がありません。QTSが発する泡をキャッチすることで会話ができたり、水槽からすくい出してスキンシップ(なでなで、つんつん、さわさわ)ができたり、様々なアイテムを与えてリアクションを楽しむことができます(特に、QTSおとなドリンク(要するにお酒)を与えてみると…ちょっぴりムフフなリアクションを楽しめます)。最初のカリス姫をヒューマンフォームにまで育ててからも、次々と新しいQTSを育てることことになるので、育成経験がそのまま次に生かせるし、全然タイプの違うキャラクターとリアクションが楽しめるし、主人公の身の回りがどんどん賑やかになっていくので、目が離せなくてついつい時間を忘れて遊んでしまいました。

 シナリオパートの方も、登場人物が非常に面白すぎる人たちばかりなので、終始笑いっぱなしです。マリーさんの豪快な女王様っぷりといい、そのマリーさんにいたぶられて悦んでる博士といい、異常に戦闘力の高い亜里といい、ドジっ子メイドのオパビンといい、泣く子とQTSには勝てないハベリンの愛嬌といい、心を開いていく過程がたまらんワプタンといい、妙に話の分かる敵さんといい、ある意味では最強なマキ夫といい…でも、そうして大切な時間を過ごす仲間たちを家族同然の存在に感じられるからこそ、QTSの真実に向き合うことになるラストエピソードは、とてもとても辛いものになるのです。普通のギャルゲーだと思っていると寝首を掻かれますぞ。号泣必至!涙を拭くのも勿体無いくらいで…ついつい勢いで初めてのSSを書いてしまうほどでした…

絶滅寸前のギャルゲーに一石を投じる新しいアプローチ

 「QTS」のアイデアが生まれたのは、1999年初頭に遡ります。イラストレーターの中北晃二氏が豊富な生物学の知識に裏付けされた創造力を発揮してキャライメージを膨らませ、その後、ガレージキット制作活動をしているクリエイターたちによって各種ガレージキットイベントでQTSキャラの競作が展開されていきました。その後、ゲーム開発者集団のTENKYが加わってQTSプロジェクトが発足。学研「メガミマガジン」やWEBコミック連載としてメディア展開させてゆき、GAEのAndy山本プロデューサーが仕掛け人となって、今回のゲーム化が実現したわけです。ガレキからゲームへ…従来のギャルゲー文法ではまずありえないアプローチでのゲーム化ということで、知名度という点で不利な部分の多い作品でしたが、製作者自身が敢えて「ギャルゲーは瀕死の危機にさらされているけれど、その血を絶やすことなく個性的なギャルゲーを作っていきたい」と語っているように、この作品には文法化されすぎて活力を失ってしまった現代のギャルゲー文化に一石を投じ得る、熱いメッセージが込められています。小さな触れあい大きな絆。この作品の設計コンセプトが目指したもの、それは、まさに現代のギャルゲーに足りないものだと思います。小さな命を育てるという責任・信頼という絆の尊さ・触れる温もりと魂のつながり…ギャルゲーの常識を変えるパワーを持ったこの良作との出会いのきっかけに、このレビューが少しでも役に立てば幸いです。いつか人間が化石になってしまうほど気が遠くなるような未来でも、そこにゲームという文化が存在していたことと、ギャルゲーという表現がそこに存在していた足跡を残すために…

Last update : 2003/12/25


おまけ:
QTSネタバレ含む勝手に想像SS 「化石になっても…」

※このSS(サイドストーリー)には重度のネタバレが含まれており、ゲーム本編の(おそらく)トゥルーエンドをクリアしていない方が読むとゲームの楽しみを致命的に損なう恐れがあります。ネタバレの部分は白文字で隠してありますので、トゥルーエンドをクリアした方のみ、選択反転させてお楽しみください。また、まだすべてのエンディングを見ていない段階で勝手に想像して書いているので、設定の整合性について真偽のほどは保証しかねます。なお、この注意書きを無視してネタバレ部分を読んでしまった場合、GM研は一切責任は取りかねますので、くれぐれもご注意ください。

(失速しながら大気圏に突入していくカリス)

ワプタン 「姫…、姫…」
カリス姫 「…ワプタン…?」
ワプタン 「全攻性兵装をパージします…そして、残りの全てを防御フィールドにまわします…」
ワプタン 「………………」
カリス姫 「ワプタン!?」
カリス姫 「ワプタン!?しっかりして!」
ワプタン 「姫…、申し訳ありません…わたしは…ここまでです」
カリス姫 「そんな…、そんな…!」
カリス姫 「だめ!ワプタンも一緒に帰るんだから、みんなのところへ!」
ワプタン 「………………」
カリス姫 「QTSの王女として命じます!あなただけが犠牲になるなんて絶対に、絶対に許しません!」
カリス姫 「だって…だって、ワプタンは私の大切な友達だから…」
ワプタン 「姫…」
ワプタン 「…ありがとうございます…でも、どうか、私の最初で最後のわがままをお聞き下さい…」
カリス姫 「ワプタン…」
ワプタン 「…私はみなさんと…マスターと約束しました。姫を無事に連れて帰ると…」
ワプタン 「臣下としてではなく、私を友達と呼んでくれた姫を…いえ、カリスを守りたいんです…!」
カリス姫 「…うん…うん……」
ワプタン 「…でも、今の私の全てのチカラを使っても、姫をお守りすることはできそうにありません…」
ワプタン 「姫の生命活動を極小まで…卵にまで再還元することができれば…あるいは…」
カリス姫 「………卵に…また…」
ワプタン 「…次に姫が目覚めるのは1年後かもしれません。いえ、10年後かもしれません。いえ…100年後…1000年後…何億年後になるか分かりません…もしかすると…おそらく…マスターとは…もう……」
カリス姫 「…うん………でも、きっと大丈夫よ」
ワプタン 「………?」
カリス姫 「私はマスターを信じています。たとえ化石になるほど時間が過ぎても…私のことを忘れないでいてくれるって…ケイイチロウさんが未来に…マスターに私を託したように…」
ワプタン 「姫…思い出されてしまったのですか…」
カリス姫 「…うん…思い出すとまだ辛いけど…でもね、だからこそ私はみんなと、マスターと、ワプタンに出会えたんだから…だから、私は何度でも信じられるの!「未来」を!」
ワプタン 「はい…私も…しんじ…ます……………」
カリス姫 「ワプタン!?」
ワプタン 「…そろそろ…限界のよ…う…です……」
カリス姫 「ワプタンのこと…忘れないから!絶対!絶対ッ!」
ワプタン 「…全……組織を……結…晶化……生体…さい…ぼ…う…を……ほ…ご…」
カリス姫 「一緒に帰りましょう…あの人のところへ…」

夕闇の中、一条の流れ星が空を横切る。
宵闇に近づく空の一点が瞬く。
その瞬きは、少しずつ、その光を強くしていく。
やがて…それは、ゆっくりと振ってくる人の形だと、わかる。
瞬いていたのは、それ自体が、光を反射していたためだった。
ゆっくりと、ゆっくりと。
まるで天使の羽のように、キラキラと結晶の破片を降りまきながら
彼女は舞い降りてくる。
俺の腕の中に…
腕に、彼女の重みを感じた刹那、
カリスは、俺の腕の中で、結晶化した体を崩壊させ始めた。
誰か、止めてくれ…心からそう願う。
それでも、カリスは…
顔を、俺に向けて…当たり前のように、いつもの微笑で…
その唇が、わずかに、動いて…

カリス姫 「ただいま」

そして、消えた。
その最後の欠片を握りしめる。押し抱く。
そして…、ゆっくりと手を開いた。
小さな、石英の、欠片。
その中に、小さく真珠色に輝く粒が浮かんでいた。

サクジ 「…おか…えり…カリス…!」

俺は声を押し殺して、泣いた。昨日の夜と、同じように。
みんな泣いていた。誰一人声を上げずに泣いていた。
マリーさんは肩を震わせながら、
オパビンはエプロンに顔をうずめながら、
あの泣き虫のハベリンでさえ、声を立てずに泣いていた。
それで、時間が止まってしまえばいいと願うように………

亜里  「博士…カリスのことは、私とサクジに任せて下さい」
博士  「それは構わんが…今度目覚めるのは、いつになるか分からんぞ?」
亜里  「覚悟の上です。カリスは私たちの未来を守ってくれたんだもの!今度は私たちが待つ番です!」
亜里  「それに…カリスは私たちの大切な家族なんだからね!」
サクジ 「亜里…」
亜里  「あっ、でも、いくら私が丈夫だからって、5億年も待てないわよ(笑)」
みんなの顔にもようやく笑顔が戻っていた。
そう、カリスはいなくなってしまったわけじゃない。
いつかまた会える、きっと会えるんだから!

博士  「うむ…君たちにも、もう全てを話してもいいだろう…」
サクジ 「?」
博士  「みんなは覚えておるかね?…カリス君が孵化した時「ケイイチロウさん」とつぶやいたのを」
サクジ 「あ、そういえば…でも、それって俺のじいさんの名前だよな?」
博士  「うむ。実はな、カリス君が目覚めたのは、おそらく今回が2回目じゃったのじゃよ」
サクジ 「2回目!?」
博士  「君の祖父ケイイチロウは…実は、ワシと同じく考古学を研究する仲間だったのじゃよ。当時は考古学なんぞまともな学問として認知されておらんかったからのぅ…あれほど優秀な男が戦争に駆り出されて命を落とすことになろうとは…嘆かわしい時代じゃったわい」
博士  「奥さんはあやつがいつか帰ってくると信じて待っておったのじゃろうな…死ぬまでカリス君の卵の秘密を誰にも話さないままにな…」
サクジ 「その割には、やけにいいタイミングで現れましたよね」
マリー 「博士、実はサクジのおばーちゃんに惚れてたんじゃないの?」
博士  「ば、バカいっちゃいかんよ、キミ!」
博士  「うおっほん、話を戻すが…世間ではワシがQTSの第一発見者と思っておるようじゃが、本当の第一発見者はケイイチロウなのじゃよ」
マリー 「どういうこと?」
博士  「戦後間もなく…ワシの元にケイイチロウの遺族から研究資料が送られてきたのじゃよ。それは古代生物学の常識を覆す驚くべきものじゃった」
サクジ 「それがQTS…」
博士  「うむ。あまりにも突拍子も無い論文じゃったから、誰もまともに取り合ってはくれなかったがの。ワシだけはあやつを信じてQTSの研究を引き継いだというわけじゃ。もっとも、その資料の中にはカリス君のことは一文字たりと書かれていなかったがな…」
マリー 「でも、何を根拠に姫とサクジのおじいさんに接点があるって言うわけ?」
博士  「それはじゃな…不自然だとは思わんかね?なぜ今この時期にQTSが現代に蘇ったのか?5億3000万年だよ?偶然にしては出来すぎだと思わんかね?それに、カリス君だけが昔のことをよく思い出せないのはおかしいじゃろ?」
マリー 「それもそうねぇ…」
博士  「…ともかく、これはワシの推論に過ぎないが…最初に目覚めた時のカリス君は太古の記憶を鮮明に覚えていたのではないじゃろうか?いつか来る次代にも王族としての役割を望まれていたカリス君は、普通のQTSのように不都合な記憶を操作することをせず、すべての事実を記憶しておかねばならなかったのだろう。種族が滅亡する時の記憶でさえもな…」
博士  「ケイイチロウはその忌まわしい記憶を消す何らかの処置をした上で、もう一度カリス君を卵に戻したのではないだろうか?その時期を境にして、次々とQTSが発見されるようになったのは、カリス君が孵化したことでQTSが人間の遺伝情報を獲得できたからだと考えるのが自然じゃな。」
博士  「だが、当時は今のようにQTSの生態研究が進んだ時代ではなかったし、戦時中じゃったからのう…急激な環境の変化と戦争からカリス君の生命を守れないと判断したのだろう。だからカリス君を再び卵に戻したのじゃろう…いつかQTSが暮らしやすい平和な時代が来ることを願って…」
博士  「カリス君もさぞ辛かっただろうな…5億年ぶりに出会った人なのに、すぐにまた別れなければならなかったのだから…だが、記憶は消せても魂に刻み込まれた名前までは消せなかった。だから、孵化した時の第一声にあやつの名を呼んでしまったのじゃろう。」
サクジ 「だから、カリスを初めて見た時、懐かしい感じがしたのか…」

オパビン 「まー難しい話はよくわからないでしゅけどね、よーするに、次に姫様が目覚めた時も、姫様はご主人様のことを忘れたりしないし、ご主人様の子孫も姫様のことを忘れたりしないってことでしゅね?」
博士   「う、うむ、それはそうじゃが…それは何十年後のことか…」
マリー  「博士は真っ先におっ死ぬだろうから、余計な心配はしなくていいですよ」
博士   「ま、マリー君、そんな殺生な…」
マリー  「じゃ、姫が帰ってきた時のために、家をもっと賑やかにしとかないとね。頑張んなさいよ、亜里」
ハベリン 「おっ?」
ピカ子  「ピカ?」
亜里   「な、な、なにいってんのよ!子供たちの前で!」
マリー  「まぁ、たしかに、いきなり子供(QTS)がこーんなにいたんじゃ、新婚さん気分はなかなか出ないでしょうけどねぇん」
亜里   「いくらなんでも、マリーさんは子供の数に入ってないですよね?」
サクジ  「…なあ、さっきから何の話をしてるんだ?」
亜里   「こ、こ、この鈍感男がぁぁぁっ!ばかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
サクジ  「はぅっ!」
博士   「お嬢ちゃん、ワシと世界を目指さんかね?」
亜里   「いいかげんにしなさぁぁぁい!」
博士   「おうおう…」
マリー  「…当分死にそうにないわね、こりゃ」
オパビン 「やれやれ、メイドのわたくちがしっかりちぇねば、なのですよー」
ハベリン 「おぉ!?」

数年後…ゲーム本編のエピローグへと続く