Princess Holiday プリンセスホリデー
〜転がるりんご亭千夜一夜〜
対応機種 : ドリームキャスト
販売/開発 : アルケミスト/August
プレー時間 : 13時間

「プリンセスホリデー」とは?

 「プリンセスホリデー」とは、中世欧州ファンタジー風世界の「シンフォニア王国」という小国の城下町を舞台にした、明るくて前向きな純愛恋愛アドベンチャーゲームです。吟遊詩人として諸国を放浪していた主人公の元に、何人もの人づてに届いた妹からの手紙。文字はまったく読めなくなっていたが、ただならぬものを感じて3年ぶりに王都に戻ってきたのだが…そこで出くわしたのは、「社会勉強」のためにお城を抜け出して来たこの国のお姫様(レティシア)。悪漢から助けただけのつもりが追われる身となってしまい、そのまま成り行きでレティシアを匿うことになってしまった。主人公の実家は、貧民街の通称:飲んだくれ通りのりんご教会と呼ばれていて、その隣りある「転がるりんご亭」という酒場(兼宿屋)に転がり込み、レティシアはここで住み込みで修行することになった。レティシア姫の修行終了まで約1ヶ月間、教会のシスターで妹のフィー、姫の警護役で幼なじみのエル、酒場の看板娘で姉代わりのレイ姉、博識の魔法使い少女のラピス、そして、宰相令嬢のディアナ… 今日も、転がるりんご亭は、恋の多重奏で大忙し?

増量200%OVER!完全無欠の名移植!

 この作品は、元々PCエロゲーとして2002年9月27日にAugustという小ブランドが発売したものだったのですが、DCへの移植に際して「これでもか!」といわんばかりに大幅な改良が加えられました。各キャラに1種類ずつの新エンディングを追加し、新キャラとして宰相令嬢のディアナを攻略可能とし、おまけシナリオも大増量。PC版では曲のみだったエンディングに「歌(心から続く未来〜My fate〜)」を追加し、OPムービーもDCオリジナル版を追加。採光の美しい通常イベントCGの他に、柔らかいタッチで描かれるコミカルなカットインCGも大増量。「顔グラフィック」キャラ絵の口パク、「ぷるぷるぱっく」振動の演出、VGAボックス対応…完全無欠の名移植というべき仕上がりになっています。

 そして、最大の改善点は、どの選択肢でキャラの好感度が上がるのかが分かる「ナビゲーションシステム」です。これは、ともすれば「選択肢」の意味と「ゲーム性」を放棄してしまうことになりかねない大冒険とも言える試みで、ユーザーの間でも賛否両論があったようですが、私としてはこのシステムは大賛成です。選択ミスという”紛れ”の発生を防ぐ事が出来、物語への集中力を高いレベルで最後まで維持することが出来ました。12種類ものエンディング+おまけ要素、すべてやっても13時間で収めることできた「軽快さ」は、昨今の恋愛ADVが、重厚壮大な感動・奇跡系で長大化する設計と対極に位置する、貴重な成功例だと思います。

王位と自由、そして愛のカタチ…

 DC版では各キャラに2種類のエンディングが用意されていますが、それらは一度クリアした2周目以降に最終選択肢として選択可能になります。言い換えれば、このゲームでは「決断」といえるものは、このたった一度きりなのです。それは「王位を取るか、自由を取るか」という究極の選択です。どちらを選ぶとしても、その選択は「心に決めた女(ひと)の笑顔ために!」という主人公の想いが大前提になっていて、それは可能性としてのifではなく、決断の末の必然としてヒロインとの幸せな未来を素直に祝福することができました。「愛の逃避行」と等価の選択として「王国の改革者として共に困難に立ち向かう」という未来像を描くことで、相対的に自由の意味を強調し、そのどちらの道でも精一杯幸せになろうとしているヒロイン達の魅力を引き立てることができ、作品として大きく飛躍できたと思います。

 今時珍しい、赤面してしまうほど甘〜い直球ストレートな正統派な「恋愛というファンタジー」ともいえる作品であり、奇跡と感動などの劇薬ばかりのゲームに疲れてしまった諸兄に、是非オススメしたい心安らげる逸品です!

First written : 2003/06/17
Last update : 2003/10/14

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「プリンセスホリデー」 転がるキャラクター選評千夜一夜

※この選評はすべて重度のネタバレで構成されています。ゲームの楽しみを致命的に損なう恐れがありますので、ゲーム本編をすべてクリアした方、もしくは多少のネタバレも読み流せるという方のみ、白文字部分を選択反転させてお読みください。なお、この注意書きを無視してネタバレ部分を読んでしまった場合、GM研は一切責任は取りかねますので、くれぐれもご注意ください。

 レティシア・ラ・ミュウ・シンフォニア  CV.鳥居花音

 物語の舞台となるシンフォニア王国の姫君で、本編のヒロイン。愛称は「レティ」。性格はいたって明るく、天真爛漫を絵に描いたような素直な娘。「アップル」は、りんごの木を見てとっさに思いついた偽名。お城の中でばっかりの生活に疑問を持ち、街にお忍びで遊びに来ていた。そこを衛兵に見つかり、連れ戻されそうになるところを主人公のクリフに助けられる。酒場「転がるりんご亭」にて、社会勉強を始めることになり、お給仕の仕事をこなしつつ、人々の心に触れる毎日。好奇心旺盛な姫にとって、すべてが新鮮。
(以下、重度のネタバレ)
さすがは正ヒロインだけあって、存在感は抜群でした。主人公が他の誰かを好きになっても、心からの笑顔100%で祝福されてしまうので、かえってこっちが罪悪感を覚えてしまうくらい、本当にいいお姫様です。こんな素敵なお姫様から心から信頼されていて、なおかつ従兄の主人公って…う、羨ますぃ〜! しかし、トゥルーストーリー扱いになっている「シンフォニアエンド」は、いきなりSFな急展開に突入しで、ものすごく違和感を覚えました。こういう正統派のファンタジーには細かい設定や現実との接点は必要ではなく、蛇足以外の何物でもないのかもしれませんね。恋愛というファンタジーをゲームで描く上で、世界観を語ることがどれほど無意味なものなのか、戒めとすべきEDです。おまけストーリーで、シンフォニアEDの後日談としてセーラー服姿でのレティを見れたのが唯一の救いでしたが、友も家族も国も星さえも捨てて主人公と一緒にいることを選んだ、という重みが薄れてしまった感は否めません。それでも、幸せな笑顔をできるレティは、本当にいい娘ですね…(ほろり)

 シルフィ・クラウド  CV.椎名奏子

 主人公の妹で、実家である教会の見習シスター。愛称は「フィー」。控えめでおとなしく、大変優しい心の持ち主。あまり自分の意見を主張することはないが、芯はしっかりしている。熱血司祭の両親が辺境へ布教の旅に出たため、今は一人で教会を切り盛りしている。日中は街の子供達に勉強を教えたり生活に困っている人達の世話などもしており、人々からの人気は非常に高い。兄である主人公とエレノアを心から信頼している。
(以下、重度のネタバレ)
世のお兄ちゃん属性の方々のツボをつきまくりのシルフィですが、他のキャラのように「王位か自由か」という2択によるED分岐はありません。その代わりに、「妹か義妹か」でED分岐することになっています。PC版でもフィーには「シスターEND」と「ハッピーEND」の2種類が用意されていたわけですが、他のキャラには従来EDと対を成す新EDが追加されたため、対立構造を持たないフィーのEDがちょっと印象が薄くなってしまった感は否めません。18禁のPC版のように「聖職者という職務と近親相姦への二重の背徳」というアドバンテージ(?)が無くなってしまったのは、家庭用では致し方ないことだが、それならそれで一工夫が欲しかった、というのは贅沢な悩みだろうか?でも、それを補って余りある真面目で兄想いで健気な正統派妹像はよく描けていたと思うし、すべてが明らかになった後でも最後まで「お兄ちゃん」と呼んでくれたことが嬉しかったです(壊)。

 エレノア・フォートワース  CV.海原エレナ

 主人公やフィーの幼なじみ。愛称は「エル」。 卓越した剣の腕前を持つ忠誠心に厚い王国剣士にして、レティシア姫の護衛役。人から頼まれるとイヤとは言えない、不器用な性格の持ち主。かつてはレイ姉の父の元で、主人公とともに剣の修行をしていた。真面目な努力家で、主人公が捨てた剣の道を今でも歩み続けている。主人公とは互いに気の置けない間柄であり、フィーにとってはお姉さん的な存在。
(以下、重度のネタバレ)
個人的には、このゲーム一番のお気に入りキャラです。女剣士という立場と平民出身という身分への苦悩と、剣の道に対する迷い、その一連の葛藤が幼なじみの主人公との再会によって、恋することで自分を変えていく、そのダイナミズムを楽しむことが出来ました。(さすがに、「裸にエプロン」のエピソードは削られていましたけど)。「逃避行の末の小さな幸せ」という従来EDも好きだったけど、家庭用で新たに追加された「王妃エルED」には、形骸化した貴族制度をふたりが力をあわせて変えていく、という明るい未来への広がりが感じられました。その対比がより一層エルの魅力を引き立てていますね。他のキャラとのEDでも、しっかりと自分の中で気持ちの整理をつけて、精一杯気丈に振舞おうとする姿も愛しくて…どっちにしても可愛く見えてしまうのは、惚れた男の弱みか…(自爆)

 レイチェル・ハーベスト  CV.北都南

 主人公たちの溜まり場兼食堂となる酒場「転がるりんご亭」の看板娘。面倒見がよく、さっぱりした姉御肌の性格で酒場の荒くれ者たちの人気者。主人公、フィー、エルとも仲良く、近所のお姉さん的役割。ただ、貴族階級が大嫌い。レティシアの面倒をみながらも、お姫様だとは気づいていない。案外読書好きで、本を読む時は眼鏡を着用する。そして、実は世にも恐ろしい殺人的な音痴でもある。
(以下、重度のネタバレ)
いわゆる典型的な「お姉さんキャラ」ですが、まさか「義賊シャドームーン」シナリオになるとは予想外でした。PCエロゲーではないので肉感的でアダルティな魅力で悩殺!…というわけには行かないけど、それでも年上ならではの葛藤や本人も柄にも無いと思っている可愛げが垣間見えて、DC版でもしっかりとキャラが立っていました。新しく追加された「シャドームーンを王妃に迎える」というEDが、かなり面白かった。盗賊の技を極めたシャドームーンが、盗賊の手口を衛兵たちに伝授して訓練し犯罪検挙率を向上させ、犯罪を元から絶つ為に貧民層の自立を支援し、その資金の出所は金を溜め込んだ貴族たちの虚栄心を利用する、とても筋の通った論法で正面突破してしまう二人の姿が、なんとも痛快でした。王妃になってからも時々りんご亭を手伝っていて、常連客もそれを知って知らぬふりで昔と同じように接してくれる…という件には、思わず「ええ話や」〜と、じーんと来るものがありました。

 ラピス・メルクリウス・フレイア  CV.野々田早苗

 湖のほとりに住んでいる、見慣れない格好をした女の子。その素性は誰も知らない。幼い容姿に似合わず大変な博識で、誰も見たこともないような、高度な魔法をいとも簡単に使いこなし、全てを見透かすような発言をすることもある。ただ、色恋沙汰にはてんで疎い。普段は他人との交流はあまりなかったが、主人公が街に帰ってからはよく見かけるようになった。
(以下、重度のネタバレ)
お姫さま、妹、幼なじみ、姉御…という強烈な萌え属性を持った人達の後に、限りなく他人の魔法少女がどんな風に絡んで来るのか想像もつかなかったのですが…なるほど、そう来ましたか…「作られた生命」、「不老不死」、「失われた技術の守護者」それぞれに悲哀を抱えたこの少女(といっても215歳だけど)を、主人公はどのようにして救うのか、大変興味深かったのだが、不確かな奇跡にすがるよりも一緒にいることを望んだ主人公の素直さと、自分だけ歳を取らないで、いつかは愛しい人と死に別れることになるという悲しみよりも、今を二人で生きる事を選んだラピスの強さ…新EDで主人公が国王としてラピスが眠りから覚めるのを信じて待ち続けた、そんなカタチも「あり」だと思いました。ちなみに、あの服のデザインはやっぱり「ハリー・ポッター」のハーたん(ハーマイオニー)を意識してるんでしょうか?

 ディアナ・ペシュカ・ホリー・エリンギ  CV.南央美

 宰相令嬢、エリンギ公爵家の娘。慎み深く、大人しくて優しい。あまり人前に出てこない深窓の令嬢で、男性に対してあまり免疫が無い。基本的に受身の性格だが、一度決めたことはやりとげる頑固な面も。あまり人を疑うということを知らないので、利用されたり騙されやすい。クリフとは舞踏会で一曲踊っただけだが、クリフのようなタイプに会ったのは初めてで、それ以来密かに好意を持っていたようだが…。
(以下、重度のネタバレ)
一般的なギャルゲーの移植時の新キャラと比べると、シナリオ的にもキャラクター的にも成功したと思います。新キャラのディアナのシナリオのテーマは、「貴族の生き方」。レティがあまりにも庶民的過ぎて行動力に満ち溢れているため、貴族や王族特有の悩みというものが希薄になってしまったのだが、このディアナシナリオによってそのテーマを上手く補完することが出来たと思います。深窓の令嬢ならではの「ひとめ惚れ」とか、主人公が先王の忘れ形見だと分かった途端、掌を返したようにディアナとの交際を認める宰相。貴族の生き方に理解を示しすぎる主人公の行動にちょっと違和感も感じてしまいましたが…でも、ディアナED2での宰相(父)に対するディアナの毅然とした振る舞いと、その後の小さな幸せと笑顔を見て、すべてをチャラにしてもいいと思えました。この移植の象徴というべき存在です。