魔法少女リリカルなのは サウンドステージ
音楽原作:都築真紀/ivory
 ドラマCD  歌とドラマで想いと絆をつなぐCD  全6巻 
出演:田村ゆかり、水樹奈々、植田佳奈 ほか

「魔法少女リリカルなのは サウンドステージ」とは?

 見た目だけの萌えアニメではなく、その実は燃える熱血魔法バトルアクションアニメ「魔法少女リリカルなのは」の、サイドストーリーと歌を収録したドラマCD、それが「魔法少女リリカルなのは サウンドステージ」です。「なのは」の原作とも前進とも言える「とらハ」時代からサウンドステージによる本編の補完構造が伝統的な手法だったようですが、作中をつなぐ「第5.5話」などで、アニメ本編では敢えて語らなかった部分を掘り下げたてあったり、アニメ本編終了後の「第14話」で後日談で丸々1枚使ったりするなど、アニメ本編同様に非常に「なのは」らしい、特徴的な構成と位置づけになっています。いや、ジャンル的にはドラマCDなのですが、それが持つ意味は全く別次元の物です。歌とドラマでつなぐのは想いと絆。音楽という舞台で語られる、もうひとつの「なのは」。それが「魔法少女リリカルなのは サウンドステージ」なのです。(以下、なのはSS)

歌とドラマで想いと絆をつなぐ、音楽という舞台

 アニメ本編ではフェイトの願望の世界でしか登場しなかった、フェイトの家庭教師だったリニスがくれた優しさと温もりとバルディッシュに込められた願い。アニメ本編では一度も発せられることのなかった、フェイトがクロノを「お兄ちゃん」と呼ぶシーンでの壮絶なリアクション。第一期と第二期とをつなぐ幻の第14話で、なのはが裁判中のフェイトとアルフの契約記念日をお祝いするために、スターライトブレイカーを打ち上げ花火にした粋な演出。主はやての元で、守護騎士ヴォルケンリッター達がのびのびと人間的な生活を楽しんでいる温泉の脱衣所での掛け合いのひとこま。リィンフォースが闇の書発動の際に、どこまでも心優しい主はやてのために流した涙の深く哀しすぎる理由…

 映像がないことは何らハンデではなくて、歌とドラマで想いと絆はしっかりとつながれている…これはまさに「なのは」そのものです。むしろ、映像化されていないがゆえに、想像力を掻き立てられて想いはダイレクトに心に響きます。「久しく忘れていた…私はまだ泣けるのだな…」第二期最終回の離別を観た後に聞いた、リィンフォースが孤独の暗闇で漏らした嗚咽と、はやて役の植田佳奈による歌「Snow Rain」とのセットは…破壊的なほど美しく切ないものでした…

メディアを越え刻まれた思い出の記憶

 ドラマCDと言えば「本編の補完」や「番外編」というイメージがあるかもしれませんが、このサウンドステージシリーズは例外中の例外です。本編そのままの圧倒的なクオリティで語られる想いと絆は、ありありとキャラの表情が脳裏に浮かんできて、本編同様に温かくも切ない気持ちに包まれました。これまで私は数多くのドラマCDをファン買いしてきましたが、内容面でも価格面でも、ひとつの作品として満足したことは一度としてありませんでした。しかし、この作品はメディアの特質の差さえも容易く乗り越えてしまいました。

 メディアミックスの本概とは、それぞれのメディアの特徴を生かした演出を可能にする部分にこそあるのですが、その基本が貫かれている作品は数えるほどもありません。「なのはSS」の構成そのものは何一つ特別なものではありませんが、そこに込められたファン側の想いと、アニメ本編の記憶がノイズなく混じりあって、気持ちよく時間に身を委ねられる。メディアを越えて刻まれる新たな思い出。作品は終わっても記憶は終わらないのです。「なのはSS」がないと本編が楽しめないわけではありませんが、本編を少しでも気に入った人には、「なのは」をもっと好きになるために絶対に聞いておいて欲しい逸品です。

First written : 2006/01/19