〜妄想絵日記浪漫譚〜 がんばれ美月さん
サークル : 美月亭
作者 : 美月さん
既刊 : 全5巻(WEB連載版全223話完結)
「もっとがんばれ美月さん」
「がんばれ美月さんどっかん」へ連載継続

「がんばれ美月さん」とは?

 がんばれ美月さん(5巻表紙)

(C)2002-2003 美月亭/美月さん

 

  「がんばれ美月さん」とは、いわゆる今流行のWEB連載漫画ですが、WEB連載漫画で一般的なゲームや漫画などをパロディにする手法ではなく、作者自身の日常と経験を代理のキャラクターを立てて描く絵日記スタイルを取っています。この絵日記は、つい数年前までは同人とは無縁の堅気の一般市民だった美月さんが、一人前の同人絵描きになるまでの、数多くの苦難と冒険と浪漫を綴った記録なのです。

 この説明だけだと何の本か分からないかもしれませんね。作者の美月さん本人でさえも「改めて見ると何の本なのか全然分からない。このわからなさは驚異だよ」と書いているくらいですから。私自身、この本を同人誌委託ショップで初めて手に取った時は、「美月さんって誰? 秋子さん本なのか? (※2巻の表紙)」と思ってしまいましたが、数ページの見本誌のコピーを読んだ次の瞬間には、最後の1冊となったその見本誌を手にレジに走っていました。この最後の1冊に巡り逢わせてくれた同人の神に深く感謝!その面白さは論より証拠、ほぼ毎日更新されているWEB連載版を読んでいただければ、皆様にもすぐにご理解いただけるかと思います。

妄想絵日記浪漫譚

  この絵日記には「妄想絵日記浪漫譚」というタイトルが付いている通り、作中に登場する人物や出来事はあくまでも 「妄想」であって、実際に存在する人名や団体名その他諸々とは一切関係が無いはずです---と念を押してありますが、事実は小説よりも奇なりという諺の通り、現実ほど面白いものはありません。特に、堅気の感覚を保ちながら同人誌という非日常の世界に飛び込んだ美月さんにとっては、見るもの聞くもの、すべてが新鮮で最高のネタだったことでしょう。いや、ネタにしないとやってられない!ような修羅場と事件の連続と言うべきかも。ノンフィクションの日記漫画を描いていると、不思議と何も意識していなくても、自分の身の回りには漫画みたいな日常ばかり起きるようになるものですが、美月さんも例外ではないようです。でも、それは作品と作者とのシンクロ率の高さの証明でもあり、漫画の尺でリアルタイムに現実を切り取ることのできる観察力が養われている証拠です。日記漫画は恥を晒してナンボの過酷な世界ですが、日々着実にスキルを向上させていく過程を作品として残すことが出来るし、WEBを通して多くの読者がリアルタイムでその過程に立ち会える。WEB連載漫画は、そんな大きな可能性を持った表現方法だと思います。

ご利用は計画的に、同人は犯罪的に

 私自身も、23歳で初めて同人誌に出逢った遅咲きの同人者だったので、美月さんが猛烈な勢いで同人世界の深みにはまって行く軌跡を記録したこの連載は、何だか他人事のようには思えませんでした。会社の同僚や親兄弟に素性がばれないように気を遣ったり、本業の仕事でイベントに行けなくなったり、イベントのサークル参加費用に頭を悩ませたり、貯金通帳の残高の横にいつも△印(つまりマイナス)がついていたり、ついには同人誌の印刷代に事欠いて家賃を遣い込んでしまったり…「貯金は計画的に、同人は犯罪的に」という件(くだり)は、同業者としては笑うに笑えない至言ですなぁ…その他にも、「同人誌即売会…それは合格してから修羅場が待つ過酷な世界」とか「原稿入稿完了。これで眠るように死ねます…」などなど、魂の叫びが満載です。追い込まれた美月さんの壊れっぷりと漢 (おとこ)気は必見です!

 私は3年間で2500冊の同人誌(非エロ)を買ってしまった剛(業?)の者ですが、「美月さん」はその中でも十指に入るほどの良作だと、素人ながら高く評価しています。WEBコミックランキング(WCR)でも常に上位にランクインしていているし、ショップ委託販売でも、美月さん本人も信じられないような発注数をもらったりと、この作品の面白さが広く同人誌愛好者に理解され始めているということは、ファンの一人としても、素人評論家の一人としても、とても嬉しく思います。同人誌とは一期一会の極地とも言える文化であり、私がこの作品に出会えたのも本当に偶然でした。世の中何が切っ掛けになるかわかりませんね。私も微力ながら、このレビューによって、美月さんワールドの更なる発展と良き作品との出会いに貢献できれば幸いです。

※画像使用許諾:2003/05/10
First written : 2003/05/12
Last update : 2003/10/07