美鳥の日々
マンガ作者:井上和朗
 恋愛・ギャグ  恋人が右手ラブコメディ  全8巻 
連載:週刊少年サンデー

「美鳥の日々」とは?

 沢村正治、高校2年生。狂犬の悪名轟き、「悪魔の右手」と恐れられる暴れん坊で、不良たちからは一目置かれる存在だったが、その実、彼女を作って明るく楽しい平凡な学園生活を送ることに人一倍憧れてもいた。しかし、不良のイメージが強すぎて相手が怯えてしまい、何度となく告白してはフラレ続けて…彼女イナイ歴は17年と2ヶ月。現在、連続失恋自己記録更新中の20連敗中であり、文字通り「右手が恋人」の虚しい青春の日々を嘆く毎日だったが、ある日突然、セイジにずっと片想いしていたという少女・美鳥(みどり)が、セイジの右手になってしまったから、さあ大変! 「恋人が右手」という、かなり奇妙でちょっと切ない愛と笑いの生活の日々、それが「美鳥の日々」なのです。

 右手になってからの大胆な美鳥の言動からは想像もできないけど、中学の頃からセイジに片想いしてきた美鳥は、とても内気な性格で告白するなんてできない女の子でした。目が覚めたらいきなり右手になっていて、本当は泣きたいくらい怖いけど、大好きなセイジくんの側にいられるなら、ちょっぴり嬉しい。照れながらそう言われてしまうと、セイジも無下にはできないし、元に戻る方法は皆目検討もつかず、仕方なく右手(美鳥)の存在を隠しながらの奇妙な共同生活が始まったのですが…

ありそうでやっぱり他にはない、独特のギャグコメ芸風

 この手の設定は過去のラブコメにはいくらでもあったかもしれませんが、この作品には、他のラブコメにはない独特の芸風と呼ぶべき魅力があると思います。ラブコメといっても、コメディの割合が非常に高いので、美鳥の恋のライバルが続々と出現して来ても、肝心のセイジには自分が意外とモテるという自覚がまったくないので、ラブコメのお約束な展開のすべてがカラ回りしてしまって、ギャグになってしまいます。特に綾瀬さんの不器用で一途な空振りっぷりには、笑いを通り越していじらしささえ感じてしまいますが…

 一話完結型のショートギャグ形式であるがゆえに、エピソードによって読者の好みの差やネタの出来不出来の差が激しいとか、ストーリーモノとしては盛り上がるべきポイントが絞りきれていない構成であるとか、構造的には難点も多々ありますが、進展しそうで全然変わらない、散発的でいつもどおりのバカな日常を笑って過ごせるということこそが、後になってみればとても幸せなことだったと、いつか感じられるようになることでしょう。なぜなら、美鳥が元の身体に戻った時、美鳥がセイジの右手だった時の記憶はすべて失われてしまうのですから…

それさえもすべて、幸せな日々のかけら

 それまでのギャグテイストとは裏腹に、終盤にはそんな辛くてシリアスな展開が待ち構えています。この夢のような幸せな日々が、ずっといつまでも続くことを願うこと…そういくら望んだとしても、それは美鳥の現実じゃない…元の身体に戻ってゼロからまたやり直すことになっても、きっと大丈夫だ。セイジも最初はそう思っていたけど、今は離れたくない気持ちが強くなってしまった。なぜなら、二人の日々はもう忘れえぬ、かけがえのない、失いたくない、大切な想い出になってしまっていたのだから…たとえそれが間違いだと言われようとも…

 この作品独特のギャグテイストにすっかり慣れてしまった反動もあって、時折見せるシリアスな表情にはぐっと来てしまうものがありました。作者がその効果をどこまで計算づくなのかは不明ですが、最後まで二人の行く末をしっかりと見守っていたいと思わせてくれる、不思議な魅力を持った作品だと思います。

First written : 2004/06/13
Last update : 2004/08/20