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Review circle gmken. He whispers some words in your heart, and makes your gentle OTAKU days.
GM研
Little Flower
同人誌サークル:花楠
 ジャンル:シャーリー 
作者:カゲロウ

「Little Flower」とは?

 アニメ化もされた大人気作「エマ」の森薫先生には、商業デビューのきっかけになった同人作品がありました。正統派メイドへのこだわりがつまった一連の初期作品たちは、森薫先生のプロデビュー後に単行本「シャーリー」に収録されて世に出ることになり、「エマ」を知ると同時に、この「シャーリー」の存在も知ったという読者の方も多いかと思います。私もご多分に漏れず、後付で同人活動時代があったことを知ったクチですが、「エマ」から森薫作品に入ってきた読者にとっても、「シャーリー」は商業誌作品と比べても全く遜色のない作品であり、むしろ短編ならではのキャラクター中心の描き方と、多くの想像の余地がピンポイントでツボに入った方も多いことでしょう。そうしたシャーリー好きが高じたファンの手によって制作され好評を博している同人誌、それが「Little Flower」なのです。

素直な感謝の言葉と心からの笑顔

 13歳の少女メイド:シャーリーと、女主人:ベネットさんとの日常を静かに忠実に描いた「シャーリー」は、ヴィクトリア朝の世界観を描写する「エマ」とは少々趣が異なり、キャラを魅力的に描くことのみに傾注しています。メイド服を支給されてスカートを「ぶわっ」っとさせてみる…などの森薫作品の根底にある正統派メイドへのこだわりと少女の萌え合わせ技にノックアウトされた方も多いことでしょう。その一人でもあるカゲロウさんが描くシャーリーは、ちょっと子供っぽいところがありますが、掃除も料理も裁縫も得意なスーパーメイドのように思えるシャーリーが、ひたむきで真面目であるがゆえに、気持ちを押し殺して溜め込んでしまいがちなところを、微笑ましい主従関係を通して年相応の少女でいられる姿が描かれていて、これはシャーリー好きにとっては、この上なく好ましい切り口です。素直な感謝の言葉と心からの笑顔…本気でシャーリーに萌え直しました。

 カゲロウさんの自画像キャラ(メガネウサギ)による実録あとがき漫画「カゲロウ日記番外編」も、密かな人気を集めているポイントです。入稿に向かう特急電車内でトーンを貼り、地下鉄でベタ塗りとノンブル打ち、印刷所でさらに仕上げを…あまりにもギリギリの修羅場過ぎて不定期なのが残念ですが、日記のネタだけで1冊本ができてしまいそう。ネタに困らない生活はそれはそれで困りモノですが…

原作と二次創作の在るべき姿とは、
作品を愛し喜びを分かち合うということ

 二次創作の原動力となるのは「好き」という純粋な気持ちですが、好きすぎる作品の二次創作には特有の難しさがあります。尊敬する作品に少しでも近づこうとするあまり、構図やコマ割りやネタに至るまで発想レベルで自然と似てきてしまい、自分の中で原作との距離の取り方が分からなくなってしまいがちです。特に「シャーリー」は森薫先生がモワワンとした願望をストレートに詰め込んだ「創作同人」であり、ファンの「好き」という想いをぶつける二次創作とは距離が近すぎる戸惑いから、気持ちに追いつけなくて上手く描けない自分を責めてしまうことも多々あるようです。

 しかし、作品に対するその飽くなき愛情は、紙の上での絵と文字のように分かりやすいものではありませんが、確実に読者に伝わっていると思います。カゲロウさんが原作に臨む誠実な姿勢を知ればこそ。入稿が済むまではシャーリーの新作を読んじゃいけない!と身悶えして我慢する武士魂を知ればこそ。徹夜明けのイベントでもスケブを引き受けてくれる漢前な心意気を知ればこそ。原作と二次創作の在るべき姿とは、作品を愛し喜びを分かち合うこと。同人誌を作る意義の原点を再確認できる逸品です!