本日 昨日
Review circle gmken. He whispers some words in your heart, and makes your gentle OTAKU days.
GM研
リリアンが大王
同人誌サークル:Aqua Mana
 ジャンル:あずまんが大王/マリア様がみてる 
作者:川口翔

「リリアンが大王」とは?

 万能素材「あずまんが大王」のキャラとネタを他の作品に当てはめたコラボ同人誌は数多くあります。何にでも合うこの”魔法の調味料”は、どんな料理に使ってもそれなりに美味しくできてしまう魅惑のエッセンスですが、調味料の存在感が目立ちすぎて予想外の何か・予想以上の何かを発揮しにくい手法という一面もあります。

 「リリアンが大王」はそのタイトルの通り、マリみてを舞台にした「あすまんが大王」風の同人誌ですが、それはあくまでも「風」であって、ネタレベル・キャラレベルでのパロディに止まるものではありません。読感は確かに「あずまんが大王」みたいで面白いと感じるのですが、よくよく資料を検証してみると、そんなネタは漫画にはないし、マリみてにもありません。それでもまったく違和感を感じない。むしろ、これが自然なことだとさえ思えてくる、暴走ギャグ4コマ、それが「リリアンが大王」なのです。

キャラ特性とギャグ特性の融合

 祐巳ちゃんの山百合会としての資質を「8時だよ」という振りに「全員集合」と答えることに見出す江利子さま。時代劇でいうと令さまは八兵衛だと断言し、お姉ちゃんだから我慢しなさいと妹から言う由乃さん。絵心もないのに真美さんが想像だけで(山辺先生)を描いた人物像が偶然にも激似だったので、「エスパー真美」と呼び、冷静に「ぼさぼさだったらよくあるタイプですからね」と言うのも聞かず、「次からそれコーナー化ね!」と勝手に話を進める三奈子さま。「2つの要求を1つだけかなえると勝手に大当たりする」と、由乃さんと祐巳ちゃんの2ショット写真を祥子さまと令さまの争奪戦にする蔦子さん。祥子さまに「余裕のある表情になったわね」と言われ、「以前の自分は火星に行ったんだと思います」という可南子の話を聞いて、「大学で宇宙工学を勉強する」と大真面目に言い出す令さま…

 …というように、マリみてのキャラ特性をよく理解したネタであることと、由乃さんの修学旅行のモーニングコールで「そろそろ行ったりあ」で大ケガしてしまう令さま…のような、あずまんが的ギャグ特性をよく理解していること、その両方があるからこそ、この4コマは2つの原作の単純な足し算ではなく、掛け算になっているのだと思います。

行間であることさえ忘れる
足し算ではない掛け算になる魅力

 以上のように、この作品がパロディでありながら、オリジナルとして何の違和感もなく読むことができるのは、原作の行間であることを忘れさせてしまうくらい、両方の作品の良いところを、深層レベルで理解出来ているからだと思います。

 その最たる例が、各巻末に収録されている、卒業後の薔薇様たちによる、4コマではないDX編です。喫茶店に3人が集まってとりとめもない近況を話したり、妹たちの心配をしたり、昔を懐かしんだり…妹たちも大人になるし、自立するし、素敵な男性を見つけたら、恋をして、結婚して、家庭を持って…いつかきっと、他人でしかない「スール」は後回しになる。それが悲しいわけじゃないけど、「あの頃に帰りたい」としみじみと思ったり…そして、自分達3人もいつまでも揃ってクリスマスを過ごせるとは限らない。いつか友達より恋人を優先する日が来る。でも、まだ分からない先の話をするより、今は3人揃っている今日を楽しむことを考えよう…

 リリアンを離れているからこそ出るその言葉は、読者との距離感を代弁しているのかも知れません。ギャグを通じて描いた楽しい日々は、いつか素敵な思い出になるのだと改めて思える逸品です。