鋼の錬金術師
漫画作者 : 荒川弘
 ファンタジー  罪と罰の錬金術アクション  1〜13巻 
連載 : 月刊少年ガンガン

「鋼の錬金術師」とは?

 若干12歳で国家錬金術師の資格を取った兄:エドワード(エド)と、巨大な全身鎧に身を包む弟:アルフォンス(アル)。”鋼の錬金術師のエルリック兄弟”の名を知らない者はいない。だが、誰もが疑問に思うだろう。なぜ12歳の少年にそのような厳つい称号が与えられたのか…なぜ、彼らは”錬金術よ大衆のためにあれ”という術者の常識とプライドを捨てて、”軍の狗”と人々から蔑まれ、様々な研究特権と引き換えに、有事の際には人間兵器として戦場に駆り出される国家錬金術師になどなったのかと…

 錬金術師の父親は以前から留守がちだったが、数年前にはとうとう行方知れずになってしまった。それでも、二人には優しい母親がいたから寂しくなんてなかった。父親の書斎の本から見よう見真似で覚えた錬金術を、母は誉めてくれた。ただそれが単純に嬉しかった。しかし…エド10歳・アル9歳のとき、流行り病で最愛の母を亡くしてしまった二人は、錬金術師の間では暗黙のうちに禁じられている最大の禁忌「人体練成」によって母を生き返らせることを決意する。人体練成の理論と構築式は完璧のはずだった。でも何かが足りなかった…造り出した”それ”は、人間の形をしていなかった。その上、練成失敗のリバウンドによってエドは左足を、アルは体の全てを失って消失してしまった。咄嗟にエドは、近くにあった鎧にエドの魂を呼び戻して定着させた。自らの右腕を引き換えにして…

 エドは機械鎧(オートメイル)の手術を受けて、自分たちの肉体を元に戻すために、人体練成さえ可能にする究極の神秘「賢者の石」を探求するため、国家錬金術師になることを決意した。旅立ちの日、自ら生家に火を放ち、もう後戻りはできないと…ゆえに、彼が背負う二つ名は”鋼”なのです。

人は何かの犠牲なしに何も得る事はできない---
罪と罰の錬金術アクション

 この作品はマイナー少年誌の連載であったにも関わらず、女性新規読者層を獲得して爆発的に人気に火がついたという、珍しい形態での大ヒット作となったわけですが、だからと言って、この作品は決して「女性向け」要素が満載というわけではありません。見た目の色男よりもキャラの立ったオヤヂ(アームストロング少佐とか)の描写の方にリキが入っているし、色恋沙汰なんて皆無でテーマは重くて苦しくて、少年誌とは思えない血生ぐさいアクションシーンも満載です。でも、この作品を読んだことがある人に言わせれば、そういう表層的な要素とはまったく別の次元で、この作品は、男女の嗜好の違いなどという狭い枠組みで括ることなど出来ない、ということを理屈ではなく実感として理解することができるようになるでしょう。この物語で真に魅力的なのは、登場人物たちの”生き様”なのですから。

 マスタング大佐のなりふり構わない出世欲も、ホークアイ中尉の恐ろしいほどの冷静さも、ヒューズ中佐が伝えようとしたことも…すべては己が信じる道の先にあるもののために…アニメ版の冒頭でも語られる「人は何かの犠牲なしに何も得る事はできない」、この”錬金術の等価交換の原則”に物語のテーマは凝縮されているのですから。

その流れを知り分解して再構成する---
まるで錬金術のようなメディア展開のお手本

 スクウェア・エニックスの全面バックアップもあって、小説化・アニメ化・ゲーム化…と畳み掛けるようにメディアミックスを展開していった本作ですが、他の一般的な漫画原作のおざなりなメディアミックスとは一味も二味も違います。なにせ餅は餅屋。スクエニは元々ゲームが本職ですし、アニメ版のシナリオ構成の良さも際立っています。漫画原作付きのアニメで、あれほどまでに大胆にシナリオ構成を変えているのに「成功した」と思える例は見たことがありません。国家錬金術師の試験とタッカー事件を上手く絡めているし、ヒューズ中佐の親バカっぷりはさらにエスカレートしているし、外伝ネタの組み込み方も上手いし、それでいて軸はぶれずに、原作と同じ場所へテーマを運んでいく。まったくもって見事なものです。

 私もアニメからこの作品に入ってきた口ですが、漫画原作版を読んでみて、もっとこの作品が好きになりました。テンポのいいギャグタッチと、おまけ4コマは漫画版にしかできない芸当です。「私が大総統になった暁には、女性士官の制服をミニスカに!」というおまけ4コマのネタはアニメにも小ネタとして組み込まれているくらい、面白さは折り紙つき。「おまけ4コマだけで1冊描いてもいいくらいだ」とは作者の言。自分の作品とキャラクターを自ら楽しめる遊び心があるからこそ、どんなにハードなテーマでも、この物語は歩みを違えることがないのでしょう。ここまで周囲が騒いでしまうと「食わず嫌い」になってしまう人もいるかもしれませんが、漫画でもアニメでも、どちらからでも気軽に楽しく触れてみて欲しい作品です。

First written : 2004/02/10
Last update : 2004/08/20