ガンスリンガー・ガール
マンガ作者:相田裕
 アクション・ドラマ  美しくも儚い少女群像劇  1〜6巻 
連載:月刊電撃大王

「ガンスリンガー・ガール」とは?

 公益法人「社会福祉公社」…表向きは政府が主催する身障者支援事業だが、その実体は、国中から集められた子供の障害者に、試験的に「義体」と呼ばれる機械の体を与え、投薬による「条件づけ」と呼ばれる洗脳を施して、反政府テロリスト達の暗殺を主とする任務にあたる諜報機関である。ある少女は、殺害された家族の死体の隣で一晩中暴行を受け、一命は取り留めたものの自殺を望んでいた。ある少女は、四肢の障害のために生まれてから一度も病室を出ることなく、書類一枚で両親から厄介払いされた。ある少女は、工場の借金を返済するため、保険金目当てに実の父親に車で轢き殺された…

 幸福とはあまりにもかけ離れた少女たちは、投薬によって不幸な過去の記憶をすべて抹消されて、素手で人を殺せるほどの強靭な体を与えられた。危険な汚れ仕事と引き換えに少女たちが得たものは、つかの間の本当に小さな幸せだった。担当官との兄妹のような信頼とも愛情とも取れる絆…しかしそれさえも、戦い傷つき投薬を重ねる事によって、哀しいことだけでなく、楽しいことも大切なことも忘れていってしまうのです。そんな少女たちの、美しくも儚い群像劇、それが「GUNSLINGER GIRL」なのです。

少女に与えられたのは、大きな銃と小さな幸せ

 義体の少女と公社の担当官は「フラッテロ」と呼ばれています。これは、イタリア語で「兄弟」という意味です。フラッテロの形はそれぞれです。大量の投薬による「条件付け」の強化によって忠誠心を煽ったり、愛情を強要するこも不可能ではないが、薬物依存症になってしまうと実戦で使い物にならなくなる。ゆえに、少女たちには感情が残されたままになっていて、普段は兄と妹のように接することが必要になるのです。もっとも、実の兄と妹のように優しく接する担当官もいれば、あくまで仕事の道具として厳しく躾ける担当官もいれば、実の娘のように扱いに困惑している担当官もいる。だが、いずれにしても、義体の少女たちにとっては、担当官は自分にとって唯一絶対の存在なのです。それは、そのように「条件付け」されているからというだけではなく、過去の何もかもを失った少女たちが、自分を必要としてくれている人の役に立ちたいと願っているから。そのために、少女たちは大きな銃を取るのです。

 しかし、付き合いが長くなればなるほど、担当者にとってこの「兄妹ごっこ」は、やがて哀しいものになってしまうのです。どんなに親身になって義体の少女と接していても、少女たちは自分の命令によって戦い、そして傷つく度に投薬を施され、義体のデータを取るために条件付けを書き換えられ、次第に自分との思い出を忘れていってしまうのですから…たとえ、担当者が命を落とすことになろうと、義体の条件付けを書き換えるだけで、すべては無かったことになってしまうのです。少女たちは目を覚ますと頬を濡らしている涙に気づきます。でも、何故自分が泣いていたのか、その理由を思い出すことは二度と無いのです…

美しくも儚い少女群像劇が向かう先は破滅…なのか?

 相田裕先生の繊細なタッチで描かれる、歴史と伝統を誇るイタリアの美しい街並みと相反するように、この物語で描かれているテーマは、テロリストの暗躍と、血生臭い暗殺劇です。少女たちは銃を手に取って戦い、人を殺す。そこに憎しみは何もない。だが、殺す理由は十分にある。小さな幸せを与えてくれる担当官の命令だから、悪い人をやっつける。少女たちにとっては、それだけが義体としての自分の存在理由であり、担当官から信頼と愛情を受けるための資格なのだから、当然のことです。死ぬのは嫌だけど、担当官が自分を守って身代わりに死ねと言うのなら、きっとその通りにするでしょう…迷いなくそう言い切る、少女たちの笑顔がなおさら痛々しく感じてしまうのです。

 静かで淡々と進む、この美しくも儚い少女群像劇が向かう先にあるものは、破滅しかないのでしょうか? もしも、誰かを好きになってしまって、それでも永遠に満たされないとわかってしまったら…相手を殺して自分も死にます。少女たちはそう言って躊躇いもなくトリガーを引いてしまうでしょう。何しろ、少女たちにとっては、担当官との絆だけがこの世界のすべてなのですから…少女たちは眠りながら夢を見る。投薬でも消し去ることのできなかった、魂に刻まれた大切な記憶という名の夢を…願わくば、少女たちに小さくても安らかな日々が訪れんことを…

First written : 2004/09/04
Last update : 2004/12/25