銀と金
マンガ作者:福本伸行
 ギャンブル  サバイバルギャンブル漫画  全11巻 
双葉社(アクションPIZAZZ)

「銀と金」とは?

 ギャンブル漫画界の鬼才:福本伸行。ギャンブル漫画界ではその名を知らぬ者はいない程のビックネームですが、一般的な漫画読者にはまったく馴染みが薄い存在でした。かくいう私も、大学時代に麻雀好きの友人から、この作品 「銀と金」を強引に薦められるまで、その名をまったく知りませんでした。しかし、これが思いも寄らぬ大当たり!その後「カイジ」「アカギ」「天」と立て続けに狂ったように読む耽り、すっかり「福本ワールド」の虜になってしまいました。

 巧妙に練りこまれた心理トリックと、人間の欲望を極限まで突き詰めた命懸けの駆引きと、決して上手くない独特の絵柄でストレートに表現される、大金と欲望と魑魅魍魎が乱舞する極限のギャンブル世界… その魅力を最大限に引き出した作品であり、私が最も愛する福本漫画、それが「銀と金」なのです。

サバイバル・ギャンブル漫画

 「銀と金」で扱っているギャンブルは、「アカギ」や「天」のような麻雀漫画ではないし、「カイジ」のような新種のオリジナルギャンブルでもありません。『株の仕手、絵画取引、ポーカー、麻雀、競馬』…どれもこれも、ごくありふれた健全なギャンブルです。しかし、福本マジックにかかれば、これらは命懸けの駆引きにまで昇華されてしまいます。『1cm100万円の鑑定勝負』、『青天井10億円ポーカー』、『役満祝儀1兆円!狂気の「誠京麻雀」』、『1レースを私物化した300億円サシウマ競馬』…金の魔力に取り憑かれた化け物じみた悪党たちを、さらなる巨悪「平井銀二」と天才「森田鉄雄」が狩る!それが「サバイバル・ギャンブル漫画:銀と金」なのです!

 福本漫画の特徴といえば、やはり「同じ顔でグラサンの黒服たち」と、「ざわ…ざわ…」という効果音や「ぐにゃ」などの演出でしょう(分かる人には分かる)。独特の絵柄で描かれる、切れめ長の目、鋭角過ぎる顎、やたらとリアルな歯並び、などなど…一見すると下手とも取られかねない絵柄ですが、この絵柄は修羅場になると凄まじい威力を発揮します。人間の狂気と叡智が渦巻く修羅場にハマリ、欲望と金の圧力で世の中すら歪んで見えてきます。欲望・執着・畏れ…人間の暗部をすべて曝け出させて、敵を完膚なきまでに打ちのめす!この「福本節」の味を知ってしまったら、もう普通の漫画では満足できない身体になってしまうかもしれません。

欲の世界を突っ切った先にある世界

 この漫画は、ギャンブルそのもへの考え方においても、他の凡百のギャンブル漫画とは一線を画しています。金は力、この欲望に彩られた現世、この浮世がキャンパスなら金は絵の具である。使い方しだいではどんな壮大な夢でも、絵空事でも具現化できる。だが、欲の世界を突っ切った先には世界がある。金の向こう側の世界…鬼がいるのか、ひょっとすると仏にでも遭えるのか、いや、案外そこに座っているのも人間かもしれない… 森田鉄雄のこの言葉にこそ、ギャンブルという魔物のすべて集約されていると思います。

 本誌の連載は「第一部完」という形で終ってましたが、 「第二部」の再開はまずないでしょう。バブルの残り香など微塵もなくて、底なし不況に喘ぐ現在の日本では、こんな景気のいい話なんてどこにも転がっていないので、巨悪をもって巨悪を制するカオスヒーロの出る幕はありません。使われなかった伏線「某国ナンバー2の老人の資産」とか、気にならない点がないわけではありませんが、それでも、この作品が名作であることには何ら変わりはありません。史上最強の「無差別級ノンジャンルギャンブル漫画」として、自信を持って万人にオススメしたい逸品です!

 注)あなたのココロの健康のために、読みすぎには注意しましょう。

First written : 2002/03/19
Last update : 2003/10/27