げんしけん
漫画作者 : 木尾士目(きおしもく)
 オタク・ドラマ  アキバ系青春(?)物語  1〜7巻 
連載 : 月刊アフタヌーン

「げんしけん」とは?

 大学に入学を果たした春…主人公の笹原完士は、”ある種”のサークルに入る事を決意していた。しかし…漫画研究会やアニメ研究会などの「オタク系サークル」というものは大抵の場合、ただ好きな者同士が集まっているだけなので、積極的な部員勧誘なんてして来ないし、根拠の無いプライドで自分がオタクに染ってしまうことを避けてきた彼にとっては、オタクのオーラに気圧されてしまい、話し掛けるきっかけを作ること自体が至難の技だったです。その時、サークルリストで気になる名前が目に入った。「現代視覚文化研究会」、略して「げんしけん」---オタクっぽい雰囲気は十分すぎるほどあるけど、どんな活動をしているのかは全く不明。意を決して見学に行ってみると…あっさり罠に掛かって、オタク(同類)としての自分の本性を暴かれてしまい、なし崩し的に入会することになってしまったのです。

 実際に、オタクの世界に入ってくるきっかけで一番多いケースは「友人の影響」なのですが、類は友を呼ぶという諺の通り、その人自身にその手の素質があるからこそ出会ってしまうわけであり、類は友を呼び、友は群れを呼び、いつしか自然と集団(サークル)が出来上がるわけです。そこに一般人だった主人公が自ら好んで飛び込んでゆき、オタクの世界に染まっていくその様を通して、オタクたちの生態をリアルに描くアキバ系青春(?)物語、それが「げんしけん」なのです。

リアルすぎる”オタク”という生き物の生態

 とにかくこの作品は、リアルすぎるほどにリアルに、オタクという生き物の生態を描いています。マスコミが面白半分に採り上げる、一般人からの視点の概略的なオタクのイメージなんていう紛い物は、真実の姿を前にしては何の意味も持ちません。ただし、それは大層な主義主張とかそういうものじゃなくて、ただ単に楽しいから、ただ単にそこに面白さを感じるから、そして何より、その楽しさを共有できる仲間がいるということなのです。その楽しさを描いた上だからこそ、壮絶な戦場となる同人誌即売会も、生活を切り詰めてでもオタクアイテムを衝動買いをしてしまう習性もすべて、「好きなものは好きだからしょうがない」、この一言ですべて万事解決できてしまうのです。

 もちろん、それだけではなくて、オタクの特殊性をギャグにしてしまう要素も満載です。オタク(美少年)の彼氏を持ってしまった春日部さんの悲劇。コイツらに染まってたまるか!と健気に抵抗しつつも、いつの間にか適応してオタクという生き物を理解しちゃってる自分に気づいてしまい激しく自己嫌悪。こうして春日部さんという一般人としての視点もあるからこそ、他のキャラのオタクさがより際立ち、そのオタクさ加減に呆れる春日部さんのリアクションを見ることで、オタクな読者は同胞としての共感とともに、その様をギャグとして素直に笑うこともできるのです。リアルでありつつコメディでもある。その匙加減がとても気持ちいい!

俺に足りないのは…覚悟だ

 「俺に足りないのは…覚悟だ」これは、主人公が自分に足りないものは何なのか痛感した時の心の声です。世の人々は、オタクという人種は全部が全部、まともにコミュニケーションができない社交性の無い連中だ…そう思われがちのようですが、それは大きな間違いです。オタクの世界にも独自のルールや暗黙の了解というものがあります、自分がオタクであることを認め、オタクの世界で生きていくという覚悟があるなら、自分から声と手を上げて溶け込もうとする姿勢が必要です。来る者は拒まず、去る者は追わず。それがオタクの世界の不文律なのですから。

 「オタクはなろうと思ってなるもんじゃない。気づいたらなってるもんだ。だからやめる事なんてできない。」これは名言ですねぇ…流行り廃りのある趣味の1つではなくて、もうこれは本人が生まれながらに持ってしまった「特性」であり「業」なのです。自分が「いい」と思ったものを否定する事は、自分自身を否定するようなものですからね。ひとたび自分の本性に出会ってしまったら絶対に離れることなんできないんだから、ならば、トコトン楽しめばいい。オタクがオタクであることを心から楽しめる、そんな逸品です。

First written : 2004/04/22
Last update : 2004/08/19