風雨来記
PS製作:FOG   2001/1/18発売
 旅行・ドラマ  恋愛アドベンチャー  26時間 
キャラクターデザイン:岸上大策

(C)2001 FOG
「風雨来記」とは?

 主人公「相馬轍」は、マイナー旅行雑誌「ふうらい」の駆け出しルポライターである。彼が以前に書いた旅行記「みちのく無銭紀行」が高く評価されて、二年に一度開催される出版業界の祭典である「心光展」にノミネートされた彼は、新設されたデジタル部門への挑戦を決意する。北海道の東部・北部を、一ヶ月かけてバイクでツーリングしながら、ホームページに写真と記事をアップロードしていく一人旅へと旅立つ。その旅行記とホームページの名前、それが、「風雨来記」です。

 主人公の父がカメラマンとして大成するきっかけとなった心光展、父と母が出逢った思い出の場所北海道、そして、旅先で出逢うことになる、心に深い傷を負った少女達との哀しい恋…
”アイツ”が残したバイクを駆り、「最高の場所」と「最高の1枚」を求めて、今日も彼の旅は続く…

心は北へ、風を切る旅の快感

 PS最末期の作品ということもあり、ゲーム開始当初は、正直言って、DCの「久遠の絆」に比べて、立ち絵の粗さや中途半端なボイスの演出にガッカリさせられたし、バイクの移動シーンに戸惑ったり、カメラ撮影モードのピント合わせが写真の出来には全然関係なかったりするなど、システム面では不満だらけでした。でも、旅先で知り合った名も知らぬバイク旅仲間と、野宿で焚き火を囲んだ宴の何気ない会話や、地元住民の大らかで素朴な人柄に触れ、80箇所にも及ぶ観光スポットを、現地取材による3000枚もの膨大な数の実写撮り込み画像で再現した、”花の季節”と呼ばれる、初夏の北海道の雄大な大自然を眺めているうちに、本当に北海道に行きたくなっている自分に気付いてしまいました。

 それと、意外と楽しかったのがホームページ作りでした。人気ランキングの変動や、読者からのレスやメールに一喜一憂したりするのは、まるでレビューを書いてる自分の姿とだぶっているようで、他人事とは思えない。観光スポットの数だけイベントの数だけネタが豊富にあるし、記者としての視点で書かれたその日の出来事を、読者の視点で振り返ることができるのは新鮮な感覚でした。「本当の北海道の風景を見せる」という、製作者の狙いどおり、「旅ゲーム」としても十分に魅力ある作品だと思います。

恋は夢、旅は現実

 このゲームをジャンル分けすると、「恋愛アドベンチャーゲーム」に分類されますが、普通のギャルゲーだと思っていると、思い掛けない不意打ちを喰らう事になるでしょう。共に旅する中でヒロイン達の心の傷を癒していくうちに主人公自身の孤独も癒され、信頼はやがて愛情となり幸福の絶頂の中で二人は結ばれる。だが、お互いを大切に想うが故に、やがて訪れる、避け難いあまりにも哀しい恋の結末に…(号泣)ゲームのシナリオでこれほどまでに心を掻き乱されたことはありませんでした。演出論として「哀しい物語だけど、前向きで上質な悲恋モノ」として認めている自分と、狂おしいほど感情移入してしまい「ハッピーエンドを願って止まない」自分との葛藤がありました…

 その悩みを解決してくれたのが、「恋は夢、旅は現実」という、おやっさんのセリフでした。最後に都合の良い奇跡を起こして、下手なハッピーエンドでお茶を濁す駄作よりも、はるかに心に残ると思います。それに、もしも本当に奇跡というものがあるのだとすれば、「出逢い」のすべてが奇跡なのだと思います。出逢うから別れがあるんじゃない。 別れは新たなる出逢いと旅の始まりであり、生きていく限り旅は続くのだから…だから、最後はせめて笑って見送ろう。忘れ得ぬ想いを心に刻んで…

※画像使用許諾 : 2002/09/30
First written : 2002/09/30
Last update : 2003/10/21