エマ
マンガ作者 : 森薫HP
 時代・メイド  ブリティッシュ・ロマンス  全7巻 
連載:月刊コミックビーム

「エマ」とは?

 19世紀末、英国ロンドン。産業革命による変化と刷新の時代。そして、古い生活習慣と階級社会もまだまだ根強く、依然として道には馬車が行き交っていた時代---伝統と革新が息づくこの街で、一組の男女が恋をした。しかし、それは決して許されない恋愛だった。メイドのエマと上流社会に名を連ねる商家ジョーンズ家の跡取り息子のウィリアム。階級差のある二人の「身分不相応の恋」の行方を描いたブリティッシュ・ロマンス、それが「エマ」です。

 「階級の違いが恋の障害になる」というのは、現代の恋愛観では障害の克服が絶対正義と解釈されてしまうため、その障害の真の意味を理解することはできないでしょう。しかし、現実にその恋を押し通すことが、とても困難で厳しく苦しい選択だった時代が確かにあったのです。しかし、障害が大きければ大きいほど恋は燃え上がるという真理は、今も昔も変わりません。

伝統と革新のブリティッシュ・ロマンス

 現代の英国にも階級社会は残っていますが、かつての英国には現代とは比べ物にならないほど厳然たる階級社会が存在していました。「英国はひとつだが、中にはふたつの国があるのだよ。すなわち、上流階級以上とそうでないもの---このふたつは、言葉は通じれど別の国だ」という作中の台詞にもあるように、資本家と労働者とでは世界そのものが違っていたのです。しかし、それは何も、上の立場から見た一方的な見解と言うわけでありません。どうしても埋められない階級の差…それでもなお、その恋を押し通すということは、階級(クラス)から自分を追放するということであり、先祖が築き上げてきた家の歴史と格式と伝統、そして親兄弟や100人もの使用人たちを養っていくという当然の責務、それらをすべて放棄することに他ならないのだから…自由と無秩序は違うのだから…

 一度は如何ともし難い階級の差によって引き裂かれた二人だが、やがて二人は、それぞれの階級(クラス)から緩やかに時代を変化させていく…人は紳士に生まれるのではなく、紳士になるのだから…

人を尊敬し信頼を得るということ

 作者の森薫先生は、オリジナルメイド本の同人誌がデビューのきっかけになった方であり、編集者からは「メイドの人」と呼ばれているほどメイド好きを公言して憚らない方ですが、この「メイド好き」は、昨今のギャルゲー主導による「メイドさん萌え!(ご主人さまぁ(はーと)とか、ご奉仕いたしますぅ)」とは全く種類が違うもので、あくまで控え目で家政婦としての自分の職分に誇りを持ち、心から主人を尊敬し信頼を得る「旧き良きメイドさん」を理想像とした作品なので、くれぐれも混同しないように。

 同人時代の作品を商業誌にまとめた単行本「シャーリー」を読むと良く分かりますが、とにかくメイドへのこだわりは尋常ではありません。無口で美人でメガネで照れ屋なメイドさん、という属性持ちのツボを突きまくりの主人公(エマ)のキャラ設定もさることながら、あとがきの作者のコメントにもあるように、作者の趣味(英国・メイド好き)丸出しで無駄に力の入りまくった主観描写が素晴らしい!(1巻のP77に見られるアングルの使い方なんかは、その最たる例です) 好きこそものの上手なれ。そんな諺がとても良く似合う逸品です。

Last update : 2003/10/30