スーパーメイドちるみさん
漫画作者:師走冬子
 4コマ  特殊メイドがいる日常  1〜6巻 
連載:まんがタイムきらら

「スーパーメイドちるみさん」とは?

 原田家に住み込みで働いているメイド「ちるみ」さんは、料理も掃除も気配りも完璧な可愛いメイドさんである。唯一の欠点を除いては…その欠点とは、身の回りの物を意図せず無差別に破壊してしまうことである。その破壊力たるや、ビルを解体してしまうほど(ただし、意図的に壊すことは苦手)。ベストセラーSF小説家の原田潤一の収入の大半は、毎日破壊される大量の皿代に費やされていようとは、読者は想像だにしないだろう。しかし、あまりにも日常的に破壊音を聞いていると、それをきかっけにしてアイディアが出るようになるから不思議である。むしろ、何もないと落ち着かないくらいだ。

 メイド学校時代からの知り合いの「ちゆり」さんは、軍隊上がり(?)のトラップマニア。「ちまき」教官はどう見ても子供にしか見えないが、怒らせると仕込み杖がキラリと光る鬼教官。「ちふゆ」さんは修理が得意だが小さくて可愛いものには見境がない。「ちおり」さんは爪楊枝からミサイルまで作ってしまうなど…特殊すぎるメイドさんたちが織り成す、メイドさん「萌え」マンガのイメージを根底から覆した、ほのぼのとした日常4コマ、それが「スーパーメイドちるみさん」なのです。

破壊と罠とのつり橋効果?

 そんな風にドジだが(というには危なっかしすぎるけど)常に明るく前向きで周囲を笑顔にしてくれるちるみさんのことを、原田家の面々は家族の一員と同様に接している。ちゆりさんは主人の麗子さえトラップにはめるので生傷が絶えないが、お嬢様育ちの麗子にとっては同い年で初めて対等に接してくれる貴重な存在である。ちまき教官は見た目も行動も発想も子供にしか見えないので、何度も警察に保護されそうになったりもしているが、特殊すぎるメイド学校の生徒達を束ねるには欠かせない存在になっています。

 だが、彼女たちには多くの謎がある。あまりの破壊力と年齢不詳な経歴にロボット疑惑が絶えないちるみさん。「自分の趣味(トラップ)を活かせる職場にいた」と軍隊時代をほのめかしているちゆりさん。4日で本物の戦車を作れるとのたまうちおりさん。そんな風に、あまりにも特殊すぎる人材ばかりを輩出している、ちるみさんが「そ…」と言いかけて訂正した「メイド学校」という設定(組織?)。真偽のほどは不明ですが、彼女たちの能力だけを並べてみたら、冗談抜きで軍団が編成できてしまいそうです。破壊と罠とのつり橋効果は、この作品の魅力のひとつなのかも知れませんね。

どこまでも自然に演出された後付設定の妙

 ちるみ→ちゆり→ちまき→ちふゆ→ちおり。単行本の巻数ごとに1人ずつ増えていく特殊メイドさんたちですが、この増やし方がなんとも絶妙なのです。メイドさんの場合、ただキャラが1名増えるだけではなく、それぞれに仕えているご主人様との関係が必ずセットのコンビになっているため、人物関係は一気に広がってしまいます。普通なら過剰な設定の追加は、個々のキャラの密度の差異が大きくなって破綻を来たしてしまいがちですが、この作品では、物語の中心に「ちるみさんと原田家」があって、その中心からのつながりと距離によって、ごく自然に登場回数の必然性が演出されています。

 それぞれのメイドさんにはそれぞれの家での日常がある。通常はそういう日常があることを会話の端々から実感できるだけでいい。時々、彼女達を個別に外伝としてクローズアップするからこそより効果がある。最初からすべての設定を想定していたとは考えにくいし、意識して演出しているとも考えにくいので、ほとんどアドリブでやっていることだと思いますが、それは、それだけ作者にとってその作品が自然な状態で描けているという証明なのだと思います。かなりメイドらしからぬ、でも、とってもマンガらしい。そんな新鮮さに出会えるオススメの逸品です。

First written : 2005/12/11