3年B組金八先生 伝説の教壇に立て
PS2販売/開発:チュンソフト
 ドラマ・学園  ロールプレイドラマ  30時間 
プロデュース:中村光一、 キャラデザ:森川聡子

「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て」とは?

 2004年春…ひとりの若手教師が、サクラ中学に赴任してきた。プレイヤーの分身であるこの若手教師は、6年前のとある事件以来ずっと教壇から離れていたが、長期入院することになった前任の”あの”坂本金八先生から、代理にと推薦され3年B組の担任を受け持つことになったのだが…彼を待ち受けていたのは、一際個性もアクも強い問題満載の生徒たち。果たして、主人公は教師として生徒たちの悩みを解決して、無事に卒業まで導けるのか? このゲームでは、性格も考え方も趣味も行動も異なる、様々な個性を持つ生徒たち一人一人が抱えている、夢や目標・悩みや不安といったものに正面から向き合うことで、それらのトラブルを解決しながら物語を進め、生徒たちの才能を伸ばしていくことを目的としています。「教師」という役割を演じるサウンドノベルの新境地=「ロールプレイドラマ」、それが、 「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」なのです。

 「弟切草」でサウンドノベルという新ジャンルを創出して、「かまいたちの夜」でサウンドノベルを一気にメジャーに押し上げ、そして「街」でザッピングという新手法で構造改革を成し遂げた。そんなチュンソフトの新たなる挑戦となる今作は、ファンとして確実に押させておかねばらない1本…のはずだったのですが、驚くほどに販売本数は振るいませんでした。TVドラマの3年B組金八先生とのタイアップ。元ジブリのスタッフも参加している全編アニメでの構成。プロモーションには上戸彩を起用… しかし、これらの要素がむしろマイナスに作用して、敬遠してしまった人も多いのではないでしょうか?かくいう私もその一人だったのですが…長年チュンソフト作品に全幅の信頼を置いてきたファンとして、愛憎両面からの分析をしてみたいと思います。

「ロールプレイドラマ」というサウンドノベルの新境地

 まず、これだけは”絶対に”理解しておいて欲しいのは、このゲームの主役は金八先生ではなく、プレイヤーの分身となる新任教師でもなく、3年B組の21名の生徒たち、ひとりひとりなのです。プレイヤーは教師という役割を演じるわけですが、主人公のセリフは一言足りとありません。あなた自身の視点で、見て考えて行動で示す。それが「ロールプレイドラマ」と銘打たれたジャンルの意味だと思います。しかし、これは、ただ普通にドラマを観るようにして進めるゲームである、という意味ではありません。ただドラマを観るような気楽さでも、10時間とかけずに1周目をクリアすることはできますが、それだけではこのゲームの本質には、到底辿り着けません。1回クリアしただけでは全体の3割も理解できないんじゃないでしょうか? なぜなら、1周目で問題を解決できる生徒は10名足らずです。クラスの半分にしか過ぎません。でも、これはある意味すごいリアリティだと思いますよ。いかに少子化が進んだ1クラス20名制であっても、教師のケアは十分に行き届かないという(苦笑)

 しかし、だからこそゲームとしての構造を持ち込むことによって、人生というドラマは「一度きりのもの」でなくすことができるのです。2周目では異なるエピソードが展開されて、今まで問題を解決できなかった生徒たちの心に触れることができるし、何周もしながらデータを引き継いで生徒たちの才能を開花させていくこともできます。生徒全員の才能開花をコンプリートするためには、相当なやりこみが必要になります。誰かの才能を伸ばすことで新たな才能カードをゲットして、その才能カードを使ってさらに他の誰かの才能を伸ばしていく…これは一種の巨大なジグゾーパズルのようなものです。しかも、ゲーム進行の主線を踏み外してBAD ENDにならない範囲の自由行動の中で才能開花に手数を割かなくてはならない難しさもあって、非常にゲーム的に面白い仕組みになっています。その点では、とてもよく出来たゲームだと思います。そして、すべての生徒の才能を完全に開花させることによって、ゲーム中では絶対に実現できなかった21名の教え子全員による合唱「仰げば尊し」を聞くこともできる。そのハードルの高さは、学校の先生という仕事がいかに大変なものであるのかを物語っているのかもしれませんね。きっと、このゲームをやり遂げた後には、上手く言葉にはできない特別な気持ちになれることでしょう…

チュンソフトらしい作品だが、らしからぬ出来である

 私は金八先生世代ではないので、TVドラマ版は一度も観た事はありません。芸人さんのモノマネで演じられる金八先生像と、説教くさい名場面だけが断片的な知識としてあるだけです。むしろマイナスのイメージしかないと言っていい。ゆえに私は、クオリティに対して絶大な信頼を寄せてきたチュンソフトが、題材として金八先生を選んだことに、大きな戸惑いを覚えました。初めて発売日にソフトを買わなかったし、割引キャンペーンの中古で買ってからもやる気がしませんでした。そんなある日、ファミ通の浜村編集長のコラムで金八先生のレビューが掲載されていて、「なるほど」と深く頷いて、ようやくやる気になりました。とにかく、1周目は我慢しよう。その先にきっと面白くしてくれる何かがあるはずだから… そしてその通り、本作は物語視点での新しい構造的な面白さを垣間見せてくれました。そういう意味ではとてもチュンソフト”らしい”作品なのですが、それと同時に、とても”らしからぬ”出来の作品だとも思うのです。

 チュンソフトのサウンドノベルに、いつも果て無き未来を見て来たファンとして、敢えて言わせてもらいます。物足りない!ものすごく中途半端な作り込みだ!…と。3年B組、21名の生徒たち…しかし、実際にはそのうちの半分近くの生徒がエピソードの主役になることなく、悩みも夢も個性もよく掴めないまま終わってしまったのです。学校の関係者にしても、最後まで何のためにそこにいたのか分からない人もいて…これは、ものすごくもったいないと思う。誰もが主役になれるほどの魅力を持ったキャラクターであるからこそ、ついつい”その先にあるもの”を想像して期待してしまうんですよ。確かに、クラスには目立たない子もいるし、問題行動を起こすような柄じゃない子もいるだろう。でも、どう贔屓目に見ても、当たり障りの無い良い子よりも、体当たりでぶつかってきてくれて、共に苦しみ共に悩んで問題を解決した生徒の方が、遥かに印象に残るものです。手が掛かる子供の方が可愛い、とはよく言ったものですね… 確かに、学校というものはそういうものなのかもしれない。でも、せめてゲームの中だけでも、自分の教え子たちには無限の可能性があるという希望を示して欲しかったと思う。ドラマチックでなくてもいい。エピソードの主役じゃなくてもいい。この子たちの”特別ではないただの一日”をこそ描いて欲しかったと願うのは、贅沢すぎる願いなのでしょうか?

First written : 2004/11/04
Last update : 2004/12/25

おまけ:

※恒例のキャラクター選評は、GM研通信vol.3にて書き下ろし収録いたします。