「大羽なお「こみパ」作品集」とは?

 大羽なお「こみパ」作品集とは、アンソロジー作家として活躍している「大羽なお」さんが、「こみっくパーティー」を題材にして製作した同人誌の総称です。GM研の同人誌レビューは元来、1冊ごとにレビューする形態を取っていますが、この一連の作品だけは特例として、7つ作品を作品集として複合レビューにすることになりました。

 それは、この作品シリーズに共通する大きなテーマを感じたからです。それは、作品を「誰のために、何のために描くのか」という、同人誌活動、および、全ての創作活動の根底に関わる者にとっての永遠の命題です。「こみっくパーティー」は、同人誌即売会という特殊すぎる世界とテーマを、恋愛を絡めて非常に面白く表現してくれました。キャラクター個々の設定は極端ですが、そのすべてをフィクションとは言い切れないリアルさも併せ持っています。だからこそ、大羽さんをはじめ同人関係者は、この作品に単純なキャラ萌えを超えた深い共感を覚えて、作品世界そのものをより深く愛することができたのでしょう。


時には少女マンガのように。
©1999 大羽なお

「作品」という表現に込めた「想い」

 同人誌即売会「こみっくパーティー」でスタッフを勤める、ちょっとおとぼけ気味で純朴可憐な心優しいお姉さん、それが「牧村南」さんです。面倒見がよくて、他人に喜んでもらうのを至上の喜びと感じる性分なので、いつしか、こみパの参加者から一目置かれて慕われる名物スタッフと呼ばれるようになっていた。悪友の大志に強引にこみパに連れてこられた和樹は、南さんと出会うことで同人に本気で取り組むようになったし、南さんも同人誌にかける和樹の熱意を応援してくれるようになり、そして、やがて二人は恋人としてお互いを意識しはじめるのだが…

 「恋人の優しさ」と「他人の優しさ」は違います! 和樹の作品をそう評した南さんは、作品に託した和樹の想いに気付く。伝えたい想いをつなぐ、作品という名のラブレター。時には少女マンガのように。誰かのために漫画を描く。それが「作品を描く」という気持ちの原点なのかも知れません。


I belive in your magic
©2000 大羽なお

信じることから始めよう

 和樹の同人活動を影ながら経済支援してくれている謎のパトロン。それが「立川郁美」ちゃんです。即売会のたびに送られてくるファンレターに書かれている高度な分析力と、高価な画材などの差し入れと、大人びた文面とは裏腹に、彼女はなんと中学生!大病を患い長期の入院生活を余儀なくされている彼女の唯一の楽しみ、それが漫画であり和樹への支援でした。そして、大きな手術を目前にしたある日、せめて最後に一目だけでも…と、和樹の前に初めて現れたのですが…

 彼女は和樹の絵を「魔法」だと信じています。その魔法にかかっている間は自分は絶対に大丈夫だから…それは、和樹にとって重すぎる期待でした。でも、それは答えでもあったのです。何かのために、何者かになるために、絵を描くということ。まずは、信じることから始めよう。自分の手が生み出す夢という魔法の力を…


銀色の週末
©2000 大羽なお

変わらなきゃ、「好きなあたし」に。

 こみパにちょくちょく顔を出して同人誌を買っているアニメファンな女の子。それが「桜井あさひ」ちゃんです。極度の照れ屋な上に、上がり性で人前に立つと頭の中が真っ白になってしまって、いつもしどろもどろになってしまう彼女ですが、実は彼女は、アニメ界では人気急上昇中の新人アイドル声優という、もうひとつの顔を持っているのですが…

 たとえウソでもメッキでもいい。アイドル声優という虚像でもなんでもいい。他人から好かれる「あたし」になれたと思っていた。でも、本当に好きになって欲しいたったひとりの人の前では、そんな虚像には何の意味もないことに気付いてしまった。このままじゃ何も伝わらないから。変わらなきゃ、「好きなあたしに」に! 好きなものを正直に好きだと言える、ホントの自分に…


静寂のモノローグ
©2001 大羽なお

「私は、何を伝えられるのだろう。」

 マンガを描いて表現することそのものが純粋に好きで、地道に単独で活動していた同人作家。それが「長谷部彩」さんです。完全オリジナルストーリーの味わい深い創作マンガを描く実力派ですが、活動と同じく派手でない絵柄ゆえに、いまひとつ同人サークルとしてはパッとしない。即売会で隣になったのが縁で、和樹は彼女の才能に強く惹かれ、ふたりはやがて同じ創作の道を歩み始めるのですが…

 褒めて欲しい、認められたい、求められたい…寡黙な彼女だが、心に秘めた想いは強かった。相手に媚びずにそのまま表現した自分を認めて欲しかった。自分の絵。自分の夢。自分の物語。自分の価値を作品の中に見出そうとしていた。しかし、和樹と出逢って、和樹の作品を好きになって、和樹を好きになって、彼女は思い知る…自分の間違いに。本当の意味で自分は何かを伝えようとしていなかったから…そして、もう一度やり直す決意を…


幼年期の終わりに。
©2001 大羽なお

全ては、そのためだけに。

 ドリームキャスト版「こみパ」の新キャラにして、正義を世に広めるために同人誌を描き、「ぱぎゅ〜」や「ですの」などの強烈に個性的な語尾を持つ、大影流柔術の使い手。それが「御影すばる」ちゃんです。しかし絵の腕前はド素人!見るに見かねた和樹は、すばるに対し何かと世話を焼くようになり、すばるはメキメキと実力をつけて編集長にも認められるようになるが…

 だが、和樹の心は揺れていた。すばるは天才的才能を開花させつつある。しかも、自分にしかないテーマを持っていて、そのための努力を惜しまない。たぶん俺はすばるには敵わないだろう…しかし、すばるは教えてもくれた。俺はすばるにはなれないが、すばるを支えることはできる。それですばるの夢がいつか叶うなら、それも悪くない。全ては、そのためだけに…たったひとりのためだけにマンガを描く。それも、ひとつの創作のカタチと言えるのではないでしょうか?


たとえば悩める乙女の物語とか。

「何かを与えたい」ではなく「自分にできる何か」で

 こみパのメインヒロインであり、和樹とは同じ大学の同じ学部で、高校時代からの腐れ縁だと本人は言い張るが、いつもなにかと和樹の世話を焼いてくれる一番の親友、それが「高瀬瑞希」です。しかし、スポーツ少女の瑞希は、マンガにまったく興味がなく、和樹が美術の道を捨てて、大学生にもなってマンガを描き始めた事に、戸惑いを隠せずにいたのだが…

 同人誌をテーマにした作品でありながら、同人を否定するヒロインをメインに据えている瑞希シナリオは、極めて異質な存在です。和樹は瑞希が居てくれるだけでいい、そのままの瑞希でいいと言ってくれたけど、私は人形じゃない。何も役に立ってないのに、隣で笑ってなんかいられない。私には何が出来るだろう? それは、プロデビューを前にして、自分には与えられる物が何も無いと悩む和樹も同じだった。「何かを与えたい」ではなく「自分にできる何か」で…瑞希の口から自然と出たその言葉は、瑞希自身の答えでした。


BYE-BYE/COMIPA

ありがとう。そしてちょっとだけ、さよなら。

 「BYE-BYE/COMIPA」とは、ラポート社の「こみパ」商業アンソロジーに掲載された短編を集めて再録した、大羽なお「こみパ」シリーズの集大成と言うべき作品です。大羽さんのアンソロ作家生活の始まりとなった「Knocks」は、同じ長谷部彩を描いた「静寂のモノローグ」と読み比べてみると、アンソロと同人をどう描き分けるべきなのか、試行錯誤の跡が良く分かります。同様に、桜井あさひを描いた「I belive you,too」は同人誌「銀色の週末」と、立川郁美を描いた「こみパへ行こう!」は同人誌「I belive in your magic」と、テーマがつながっているので、アンソロと同人を合わせて読むことをオススメします。

 そして、最後の「BYE-BYE/COMIPA」は、ラポートこみパの休刊の報を受けて描かれたもので、文字通り「さよなら」の意味が込められています。実は、この作品発表の約1年後には、ラポート社そのものが無くなってしまったわけですが…南さんから始まった大羽さんのこみパ同人は、奇しくも南さんで幕を閉じることになりました。「好き」だけじゃ世の中は止められない。でも、大好きなこの場所も、大切な想い出も、それを忘れぬ限り消えはしないから。ありがとう。そしてちょっとだけ、さよなら。最後が南さんで本当に良かった…


総論

誰のために、何のために描くのか?

 これは、同人誌活動に限らず、全ての創作活動の根底に関わる者にとっての永遠の命題であり、創作の原点となる基本理念です。しかし、この概念を真剣に突き詰めようとすることは、大きな矛盾を内包することでもあります。なぜなら、この命題には正解というものがないのですから。描き手にできることは、自分を信じて描き続けることだけです。時には迷い、傷つき、道を見失うこともあるでしょう。創作はどこまでも孤独で辛い作業ですから…しかし、創作の歓びは苦悩と同じ場所にあるのも、また真理です。そして、あるはずのない答えを自らの手で創り出した時、創作は単なる自己満足ではなく、初めて「作品」と呼べるものになるのではないでしょうか?

 「こみパ」の世界とキャラクターを通して、この命題を表現しようとした大羽さんの作品は、同人誌作家の端くれである私にとっても、いたく心に深く響きました。この良き作品に出逢えた、その感謝の気持ちをレビューという形で表現する、それが私なりの恩返しだと思っています。このレビューが、どこかの誰かの未来のきっかけになれれば幸いです。

「時には少女マンガのように。」 (1999/12/26)
「I belive in your magic」 (2000/04/23)
「銀色の週末」 (2000/08/13)
「静寂のモノローグ」 (2001/08/12)
「幼年期の終わりに。」 (2001/11/25)
「たとえば悩める乙女の物語とか。」(2002/05/12)
「BYE-BYE/COMIPA」(2002/12/30)

サークル : チキンなげっと
著者 : 大羽なお

※画像使用許諾:2001/12/11
First written : 2001/12/15
Last update : 2003/11/09

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