monthly Book Review
ぼくらは虚空に夜を視る
作者 : 上遠野浩平
イラスト : 中澤一登
出版社 : 徳間デュアル文庫

鬼才:上遠野浩平とは?

 1998年の第4回電撃ゲーム小説大賞を受賞し「ブギーポップ」シリーズで小説界に颯爽とデビューした、鬼才:上遠野浩平。類い稀なシリーズ構想力と、3年間で15冊という圧倒的な量産能力を誇る上遠野氏が、本格SFの世界に初挑戦したのが本作「The Night Watch」シリーズ第一弾「ぼくらは虚空に夜を視る」です。

 王道SFでありながら、今までありそうでなかった新鮮な感覚。ブギーポップとは一味違った、でも、同じベクトルを向いた不思議な感覚。いくらでも難しく解析できるのに、その行為を無意味に思わせる感覚。そんな矛盾した感覚も上遠野作品の魅力なのです。

SFの王道を往く

 底なしの虚空で何千年も続いてきた人類の天敵「虚空牙」との戦い、時間の流れに差をつけて光速の壁を超える「相剋渦動励振原理」、冷凍保存された移民の魂を生かすためだけに「シールドサイブレータ」が作り出した虚構の現実世界…SFの王道と言えるこれらの魅力的な設定が、読者を惹きつけて止みません。

 しかし、ただのSFで終わらせないのが上遠野流。虚構の現実世界での平凡な学生生活。自分の意思に関係なく唐突に絶対虚空の戦場に放り込まれる主人公。管理された夢で創られた贋物の世界、でも主人公とっては唯一の現実世界。その世界に初めて生身で接触してきた「虚空牙」との戦闘の中で、覚醒する人類史上有数の戦闘の天才。近くて遠い朧(おぼろ)な夜空の戦記は、どこに辿り着くのか?

The Night Watch=VSイマジネータ?

 上遠野作品の特徴に1つに、作品世界のリンクが挙げられます。時間軸も空間も無視したほんの些細なつながりだけど、ファンにとっては「ニヤリ」とすること請け合いです。The Night Watchシリーズの続編「わたしは虚夢に月を聴く」の巻末に、なにげなく「VS Imaginator Part IV」と書かれていました。もちろん、直接的なつながりは無いのだろうけど、ブギーポップ最高傑作と讃えられる「VS イマジネータ」と同じ匂いを、そこはかとなく感じられます。

 おそらく、上遠野氏自身もすべてを計算づくで書いているわけではないだろう。むしろ深く考えていないからこそ、今回のようなSFへの昇華すら可能なのでしょう。いずれにしても、稀有な異才の持ち主であることには変わりはありません。危ういバランスでタイトロープを疾走するかのような、苛烈な上遠野ワールドから、これからも目が離せない!


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