monthly Manga Review
よしえサン
作者 : 須賀原洋行
本誌 : 月刊アフタヌーン
単行本 : 全8巻

よしえサンとは?

 名古屋が誇る実在家族:Sさん一家の実在日記漫画。一見、ごくありふれた家族に見えますが、実は旦那さんは漫画家、奥さんはホホホだったのです! 会社では使えない天然ボケOL、料理はいつも運任せ出たとこ勝負、笑うことも白けることも許さない異次元お地蔵ギャグ、どんな名曲もお経にしてしまう絶対無音感…とにかく何をさせてもネタになってしまう。存在そのものが哲学を超越した存在なのです。

 そんなよしえサンに負けず劣らず、車(の洗車)や日本酒に尋常ではないコダワリを発揮する子供ダンナと、利発でしっかり者の子供たちが繰り広げる実在日常日記漫画、それが「よしえサン」なのです。

事実は漫画より奇なり

 「事実は小説よりも奇なり」という諺があります。漫画というものは基本的にフィクションであり、事実を誇張・脚色したものです。「いかにして魅力的な虚構を構築するか」にすべての漫画家が心血を注いでいるわけです。そんな状況下で、ノンフィクションで受け入れられる漫画というものは、よほどその題材(人物)が魅力的でなくてはなりません。そして、それ以上に作者の観察眼が問われることとなります。

 その点では、哲学的思考を呼び起こさざるをえない、歩く超越存在「よしえサン」はノンフィクションだからこそ面白いと言えます。まったくもって、持つべきものは良いニョーボ。漫画のネタになるために生まれてきたような…というと言いすぎかもしれませんが、ネタにされることによって、現実に多くの主婦やOLの共感を得て、根強い支持層を確立。「事実は漫画よりも奇なり」という新しい日本語を作りたくなってしまいました。

そして「よしえサンち」へ

 常に新しいことに挑戦しつづけているS先生にとって、この実在家族漫画はライフワークのような例外的存在です。「我々夫婦が105歳・100歳で同時に死ぬまで描き続ける」という宣言が飛び出したほどです。しかし、約10年の歳月は読者にとっても、キャラクター(家族)にとっても大きなものでした。ファンの固定化によって、雑誌中心から単行本中心のサイクルへと変化し、新規読者の獲得が難しくなりました。ライブ感が失われて読者の顔が見えなくなる…それは孤独な作業を続ける漫画家にとっての唯一の楽しみが失われるという、耐えがたいものだったのです。

 アフタヌーンからの撤退宣言から約1年。連載の再開を望む声に応えて、週刊モーニングの「それはエノキダ!」と入れ替わる形で、2001年6月から「よしえサンち」として連載が復活しました。しかも、4コマ形式に濃縮されたギャグ漫画として復活しました。以前のオチのない8ページフリーのノリが好きだった人もいるでしょうけど、私としては週刊で「よしえサン」が読めることに勝る喜びはありません。

 私がいつか結婚して子供が出来たら、子供にこの漫画を読んで欲しいと思う。「家族ってこんなにいいものだ」ということを知ってほしい。そして、多分仕事にかまけて今の気持ちを忘れてしまう私に「駄目出し」をして欲しい。10年後、20年後の自分のために、伝えたい、残したい1冊です。