monthly Doujin Review
【天駆ける狐】
サークル : Cherry Pearl
製作 : 南真珠
HP : http://get.to/cherrypearl

(C)2000 南真珠

沢渡真琴とは?

 キャッチーな絵柄とマニアックな設定と過剰なエロが蔓延するPCゲーム界にあって、「Kanon」はシナリオと音楽で勝負し「泣きゲー」というジャンルを確立してしまいました。発売から2年以上経った今でも、キャラクター関連商品はもちろん、同人業界でもその人気は衰える事を知りません。「鍵っ子」と呼ばれる熱烈なファン層に支えられ、今やPCギャルゲー界の盟主とすら目される存在になりました。

 異例のロングヒットの要因は、繊細なシナリオで描かれる魅力的なキャラクターにあります。その一人「沢渡真琴」は人間ではありません。7年前、主人公が助けた妖狐です。主人公にもう一度逢いたい。今度は人間として逢いたい!妖狐のチカラを使って、願いは叶いました…しかし、その代償として一番大切な記憶を失ってしまった。そして束の間の奇跡はゆっくり終わりを告げるのでした…

諦めない、信じよう、奇跡っ

 真琴シナリオはとても辛いシナリオです。ゆっくりと大切なものをひとつずつ忘れていく。人間のカタチを保てなくなっていく。発熱を繰り返し、薄れゆく命の灯。どうしようもない奇跡の終焉。主人公にできることは、ただ少しでも長く真琴のそばに居てあげること、奇跡が終わらないことを願うことだけだった…

 「天駆ける狐」は、ひとつの奇跡の終わりから始まります。残された主人公達の思い。自らの死と正体を知る真琴。失って初めて分かる気持ち。もし、もう一度奇跡が起こせるならば…ふたりの願いは同じでした。 「起こらないから奇跡っていうんですよ」と美坂栞は言っていた。その一方で「起こるから奇跡っていうんじゃないかな」と月宮あゆは言っていた。この両者は矛盾しているようであって、実は同じ事を言っています。奇跡とは、願うだけではダメ。自分で叶えるものなのだから。

 「諦めない、信じよう、奇跡っ」
 今やCherry Pearlのキャッチフレーズにもなっている、このフレーズが全てを物語っています。

ハッピーエンドの美学

 「天駆ける狐」のラストシーンは、なかなか大胆なハッピーエンドです。「大胆なハッピーエンド」って何?と思うかもしれませんが、これは言葉どおりの意味です。同人誌を描いている人には多いのですが、普通「キャラ萌え」の行き着く先はエロ、もしくは過剰な脚色です。それが悪いとは言いませんが、本当に大切なものだからこそ、認められない一線というものが誰しもあるわけです。

 この作品のラストを読んだ時「これだ!」と思いました。ゲーム設定の「外」の部分をこれほどまでに自然に表現したラストは初めて読みました。Kanonというゲームの全体を深く理解し、本当の家族のようにキャラクターを愛している。そんな作者の思い入れがヒシヒシと伝わってきます。同人誌の基本は愛。「萌え」ではなく、「家族」としての愛のカタチも同人にはある! そう気づかせてくれる1冊です。

※画像使用許諾:2001/07/25