マンガ化学式に強くなる
さようなら、「モル」アレルギー
書籍原作:高松正勝、 漫画:鈴木みそ
 化学・学習  化学式学習漫画  全1巻 
出版社:講談社ブルーバックス

ある漫画家の長く孤独な闘い

 かつて、週刊ファミ通でゲーム業界レポート漫画「あんたっちゃぶる」や「おとなのしくみ」を連載し、今でもひっそりとコミックビームで活躍している漫画家:鈴木みそ。知っている人は知っているけど、知らない人は全く知らない。そんなマイナー漫画家が、商売を完全に度外視して6年がかりで取り組んできた仕事がありました。それが化学の学習漫画:通称「モル」でした。

 化学式の学習過程をストーリーにしての全編漫画で構成する…その不可能ともいえる前代未聞の難題に挑んだ、長く孤独な闘いは、6年もの長きにわたり、…作者も何度もばっくれようとしましたが、最後は怒涛のがぶり寄りで完成に漕ぎつけました。しかし、その甲斐あって、「モル」は学習一般本としては異例の「8刷り47,000部」という大ヒットを記録し、読者の地道な布教運動によって、全国各地の学校の図書館にも置かれるようになったのです。今では、化学式の入門教材として教育の現場で実際に使用されていて、世の若者の化学嫌いと理系離れの防止に一役買っているとかいないとか…

×:漫画付き化学本、○:化学付き漫画

 現代の若者に蔓延する手の施しようのない「活字離れ」を逆手に取って、漫画を学習に活かそうという試みが始まって10年余り…文部省の「ゆとり教育」方針が招いたのは、さらに深刻な若者の思考力欠如だった。近年の教科書で急増しているイラストによる図解説明(要するに漫画)によって、文字の絶対数が減り、学習内容も大幅に削られていった。現在の学習内容は、10年前と比べて2年分も削られ、先進国とは呼べないほど教育水準が低下しているという。こんな馬鹿げた話はない!教育水準は国の未来を担う重要なバロメータである。自虐史観と左翼思想とエセヒューマニズムにまみれた文部科学省は、そこまでして日本を滅ぼしたいのでしょうか?

 誤解しないでいただきたいのは、漫画そのものが悪いわけではなく、使い方が悪いだけです。漫画という物は、連続しているからこそ威力を発揮することができるのです。物語があって、キャラクターがあって、テーマがあって初めて生きるものであり、そして、印刷面から見えないところにこそ、その本質が隠されているものなのです。それがたとえイラストであっても、その背景にあるイメージがあってこそ活きてくる。単なる絵図として安易に記号的に漫画という手法を使うということは、思考力を奪う大変危険な行為でもあるのです。

 そんな中、本書は「漫画付き化学本」ではなく、「化学付き漫画本」という全く逆の発想から生まれました。化学式の学習を全編を物語仕立ての漫画で構成されていますが、これは革命的なことなのです。私は、鈴木みそ先生の漫画のファンだから、という理由でこの本を買いましたが、私はこの本を初めて読んだとき、目からウロコが落ちました。 「あと10年早く出会っていたら、人生が変わっていたかも知れないな」…とすら思ったものです。

10年早く逢いたかった…

 私は子供のころ、化学が大好きな少年でした。「学研の科学と学習」を購読していたのですが、私は断然、科学のほうが好きでした。好奇心をそそる未来のテクノロジーと、実用的な付録がいつも楽しみでした。学校では教えてくれない「科学する心」の基本のすべてが、そこにはありました。花火から爆弾のまねごとをしてみたり、自作模型ロケットの到達高度を競ったり…

 しかし、高校生になって科学は「化学」と「物理」に分かれ、数式と化学式ばかりになってしまった辺りで、急に科学が嫌いになってしまいました。今まで実践型の科学に触れてきただけに、数式だらけの物理公式や、記号だらけの化学式を学ぶことに抵抗感がありました。それに、中学までは化学と科学の区別なく、理科として勉強してきたのに、急に化学と物理と生物と地学に分かれて、科目を選択する必要に迫られました。情報系の大学受験には物理のみで良かったので、化学は完全に捨ててしまいました。

 そんな私が、2年間かけて何ひとつ理解できなかった化学式が、わずか1冊の本の20分の読書で理解できてしまいました。これが漫画の本当の力なのです!化学嫌いの現役高校生に是非読んで欲しいですね。化学を好きになるかどうかは個人の資質の問題ですので保証はできませんが、少なくとも嫌いではなくなるはずです。分かるという快感。それが学習の真髄ではないでしょうか?

First written : 2001/08/01
Last update : 2003/10/24