monthly Game Review
ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記
対応機種 : Playstation
販売/開発 : エンターブレイン/ティルナノーグ

進化しつづける元祖

 ファイアーエムブレム(以下、FE)といえば、誰もが認めるシミュレーションRPGの元祖です。当時、家庭用ゲームの弱点とされていた高度な思考演算を、シンプルなシステムとRPG的な成長要素を取り入れることによって代用し、新ジャンル「シミュレーションRPG」を生み出し、そして今なお、根強い人気で同ジャンルの最高峰と目される至高のシリーズ…それがFEなのです。その最新作が初めて任天堂以外のハードで発売されるというのだから、いやがおうにもファンの期待も高まりました。果たしてティアリングサーガ(以下、TS)はFEを超えることができたのでしょうか?

 FEシリーズは完成されたシステムと絶妙なゲームバランスを持っていますが、同時にシリーズを重ねるたびに新しい挑戦をしてきました。「聖戦の系譜」の「2世代スキル継承システム」。「トラキア776」の「捕える&重量システム」…これらの新システムが広げる戦略の幅に毎回知的興奮を呼び起こされるのが、FEシリーズの魅力のひとつでもあるのです。では、TSの新システムとはいかなるものだったのでしょう?


育成派と戦術派

 FEのプレースタイルは大きく2つに分かれます。ひたすらキャラを強くする「育成派」と、ギリギリの戦力で戦術を駆使する「戦術派」です。その両面で絶妙なバランスをとってきたのがFEシリーズなのですが、TSでは部隊を2つに分けることで「育成と戦術」を使い分けようという試みをしています。

 育成派にとっては、成長機会が無限に与えられる別働隊の存在は天国とも言えます。普通なら育てても使わないようなキャラですら納得がいくまで鍛え上げることができます。戦術派にとっても不必要な戦闘を避けることができ、育成と戦術の両立という観点からは成功したと言えるでしょう。

 しかし、この部隊編成が大きな葛藤を生んでしまいました。部隊編成に失敗すると仲間にならないキャラや手に入らないアイテムがあるし、両方の部隊で必要になるキャラもいるので、すべてを同時に手に入れることは叶わないのです。FEマニアはひとりの戦死者を出すことも、イベントを見逃すことも、アイテムを取り逃すことも許しません。しかし、TSは止むを得ない選択を迫られる場面が多すぎるのです。FEというゲーム構造は一回のプレイにとてつもない時間とエネルギーが必要なので、複数回プレイを前提にされた設計をされると非常に困ってしまうのです。


壮大なる膨張の果てに

 TSはシリーズ過去最大のボリュームになっています。全40MAP(+無限戦闘)。人間関係も複雑で、戦場以外での人間ドラマの台詞が非常に多くなっています。しかし、壮大になりすぎたこの世界観はプレー時間の長大化を生み、結果として初心者はついてこれず、ベテランにとっては見逃したイベントに後ろ髪引かれる思いでのプレイを強いられることになってしまいました。広さと深さの両立は難しい…

 TSは総合的に高水準のシミュレーションRPGであることは間違いないのですが、FEマニアにはとっては素直に絶賛することも批判することもできない、非常に悩み深い作品なのです。きっと、好きなものに究極至高を求め続ける気持ちが、そうさせてしまうのでしょう。それが自称:FE愛好家「ファイアーエムブリャー(名古屋弁?)」のプライドであり、愛情表現なのです。