PEPPY ANGEL
サークル : PEPPY ANGEL
製作 : (作画)桜月りん&(原作)GRAN

(C)1996-2003 桜月りん & GRAN

今も続いているもうひとつのエヴァ

 「PEPPY ANGEL」というタイトルはこのシリーズの名前ではなくサークル名なのですが、これは誤植ではありません。というのも、このシリーズには一冊ごとのサブタイトルはあるのですが、シリーズそのものを指すタイトルが存在しないのです。そのため、私はこの作品を誰かに紹介する時には、「PEPPY ANGELさんのエヴァ本」もしくは「PEPPY ANGEL」という呼び方で紹介しています。(※タイトルの取り扱いについては、旧レビューの執筆時に作者ご本人様からも、 「PEPPY ANGEL」で、という確認を取ってあります)

 かつての同人誌業界は、エヴァブームによって、右を向いても左を向いてもエヴァ本だらけ、という空前のバブル状態でしたが、あれから10年…今やその勢力は数えるほどになってしまいました。しかし、淘汰されて実力のある、本当にエヴァが好きなサークルだけが生き残った、という見方もできます。その中でもひときわ個性的なエヴァ本を出し続けているサークルがあります。それが今回紹介する「PEPPY ANGEL」です。

 同人誌には珍しいA4版で装丁も豪華で価格も高めです。でも、それだけの価値は十分にあると思います。同人誌には珍しく、原作と作画担当が分かれているのも大きな特徴です。非常にハイレベルなコマ割りと視点構図とストーリー構成は、同人界でもトップレベルです。唯一の難点は、こだわりが過ぎてなかなか完結しないことと、冊数が多くてなおかつ続き物でありコンプリートが困難であることだったのですが、コロコロコミックよりも分厚い前代未聞の総集編発行によって補完されたので、新規読者も今からでも遅くはありません。

新約死海文書とは?

 この物語はエヴァンゲリオンの「if」であって「if」ではありません。エヴァ本編をベースにして新たに綴られる「新約死海文書」と言える内容です。人類補完計画や謎のベースは同じなので、物語の上では謎の部分にはほとんど触れていません。無用なことは一切語りません。あくまでキャラクターの成長に物語の主眼を置いて、もうひとつの結末を描いています。碇シンジの自虐と自己嫌悪と強い意志、惣流・アスカ・ラングレーのプライドと拒絶と許すということ、葛城ミサトの孤独と家族観、碇ゲンドウの陰謀と変わらぬユイへの愛、赤木リツコの嫉妬、そして綾波レイの秘めたる想い…原作が描ききれなかった領域に踏み込んだ、もうひとつの結末、それが「新約死海文書」なのです。

 他人という壁を飛び越えて成長していくシンジとアスカ。心の壁を越えるという事は、拒絶と痛みを伴うものである。しかし、それでもふたりは選択しようとしている。弱かった過去の自分にさよならを告げるために。大切な人と共に、 明日を歩くために…

終わらない物語を終わらせるために

 何故エヴァが今になっても多くの人にとって大切な物語でありつづけるのでしょうか?それは「完結していないから」だと思います。エヴァの同人誌の本質というものは、「原作エヴァが語ってくれなかったこと」「原作エヴァが語り損ねたこと」の中にこそあるのではないでしょうか?

 実際に劇場版の惨憺たる結末に、私は自分の中にあるエヴァ像との間の生まれたズレに、大きな戸惑いを覚えました。でも、そのズレこそがエヴァの本質であったとすれば、あの結末にも意味があったと、今ならそう思えます。本編のエヴァは誰の理解も望まず、すべてを壊してしまった。でも、終わりがあるからこそ、今までの記憶は思い出になって美化されていく。ひとりひとりのエヴァが始まる。だから気持ちの上ではエヴァは終わってはいないのです。

 形式として終わったものを、時間を巻き戻して納得の行くもうひとつの結末を作り上げる…それは同人誌だからそこできることです。それを描きたいと思う人がいて、読みたいという人がいる。だから物語は続いていく。たとえ、それが終わらせるための物語であっても…

 2004年夏、新約「文書S」にてすべてが完結する、その時を楽しみに待つことにしましょう。

※画像使用許諾:2001/10/28
First written : 2001/06/01
Last update : 2003/10/07