課長バカ一代
マンガ作者:野中英次
 ギャグ漫画  課長の道を極める(ウソ)  全7巻 
連載本誌:ミスターマガジン

課長バカ一代とは?

 「あなたは「野中英次」という漫画家を知っていますか?」この問いに対して、100人中99人は「知らない」と答えるでしょう。では、「魁!クロマティ高校の野中英次」と聞くと、ほとんどの場合、「あぁ、あの人?」という熱の無い答えが返ってくる。これは一体どういうわけなのでしょうか?

 そんなマイナーかつ特殊な作風を持つ野中氏の最長連載作品が「課長バカ一代」(全7巻)なのです。この漫画は 「真のリーダー像を見失った現代社会において、一人の男が「課長の道」を極めんとする苦悩と成長を描く」もの… ではありません。???主人公「八神和彦」33歳は、大手家電メーカー松芝電機の商品開発部の「課長代理補佐心得」(略して、ホサ)。やたらと長くて胡散臭い肩書きだが、本人はいたって真面目。だが、真面目なお馬鹿さんというものほど始末に負えないものはない。キレ者(っぽい)外見(本当に外見た目だけだが)と、堂々とした言動(だた何も考えていないだけ)に騙されて振り回される。想像を絶する「本物のバカ」とは、こういうものなのかも知れない。

奇跡の大増刷

 私自身もクロマティ高校のヒットがあったからこそ野中氏の存在を知ることができたし、過去に10冊もの単行本を出していることも初めて知りました。しかし、その当時単行本はどこにも売っていませんでした。クロマティ高校(第1巻)の巻末広告に載っていた「絶版寸前」という売り文句(?)はどうやら本当だったようです。

 慢性的絶版状態だった野中作品。しかし、クロマティ高校の思わぬ大ヒットによって、野中氏の過去の単行本にも異例の大増刷がかかりました。マニアの集う一部の漫画専門店では、人気漫画の勲章「平積み」と作家コーナーが作られ、野中英次の名は一躍「人並みの漫画家」として名が辛うじて通るまでの大出世(?)を果たしたのでした。

「なげやり」と「無愛着」

 この漫画には大きく分けて二つの特徴があります。まずひとつは、「劇画調の絵柄とのミスマッチ」です。絵柄は池上遼一を髣髴させるリアルな劇画調。しかし、よ〜く読んでいると、これは単なる「手抜き」だという事がわかってしまいます。「ディフォルメするくらいならリアルに描いた方が楽」という考え方もあるらしい。実際にこの漫画はコピーを多用している。同じネタやカットの使いまわしがやたらと多く、やたらとアップやセリフが多くて文字も多い。抜ける力は全て抜いてしまいます。しかし、ここまで徹底していると、もはや「味」になってしまうのが不思議です。

 ふたつめは、「爆笑を許さない腹のよじれるような密かな笑い」です。劇画調の絵柄と、真剣な(はず)のやりとりの中の「ずれ」から生まれるギャグは、あまりのバカさ加減に一瞬「?」マークが点り、遅れて「うぷぷっ」という失笑がこぼれる。爆笑するタイミングでは笑わせてもらえないので、 笑いのストレスは溜まる一方ですが、それゆえに本当になんでもないポイントで不覚にも笑ってしまいます。

 このような異色の作風は、野中氏の「なげやり」と「無愛着」にあるのでしょう。それは、単行本に収録されているおまけ漫画に顕著に現れています。「え?まだページ余ってるの?」という文字だけでページを埋めようとする漫画家なんて見たことがありません。だでも、からこそ、このような「無重力ギャグ漫画」が生まれたのでしょう。本当に、バカと天才は紙一重なんだなぁ。

First written : 2001/05/01
Last update : 2003/10/21