monthly Manga Review
ハーメルンのバイオリン弾き
作者 : 渡辺道明
本誌 : 月刊少年ガンガン
単行本 : 全37巻

ハーメルンのバイオリン弾きとは?

 月刊少年ガンガン誌上で約10年に渡って連載されていた人気漫画「ハーメルンのバイオリン弾き」が、遂に最終巻を迎えました。全141話、全37巻。本当におつかれさまでした。

 私がこの作品に出会ったのは、まだ単行本は4巻しか出ていなかった頃でした。それからかれこれ10年…思えば遠くに来たものだ(遠い目)… 最初は「悪徳勇者御一行様」のギャグ漫画として読み始めたけど、終わってみればしっかりと感動の物語として完結した。しかも、連載開始当初からこの作品が持つ特殊性を保ったままで。

脱線とシリアスの二重奏

 この作品の魅力は、やはり何といっても「脱線とシリアス」の絶妙のバランスにある。どんなにシリアスな場面であっても、不意に「脱線スイッチ」が入ってしまうと、あっという間に悲劇は喜劇に様変わり。死と殺戮の惨劇の舞台が、ボケとツッコミのお笑い劇場に… 

 扱っているテーマが「魔族の圧倒的恐怖と、人間の希望の力」であるだけに、その落差と緩急を表現する手段として「脱線とシリアス」は有効な手段だ。しかし、一歩間違うと脱線しすぎて話が進まなくなったり、シリアスな場面を茶化してしまいかねない、という危険性も孕んでいるのだ。

 だが、この作品は両方のエッセンスを共存させることに成功した。作品発想の原点であるクラシック交響曲の如く、絶妙の二重奏を奏でて…

大交響曲堂々完結

 先程は「脱線とシリアスを共存させた」と書きましたが、正確にはこれは作者が意図してやったことではありません。むしろ、作者は個性の強いキャラクターたちの暴走にブレーキをかけるだけで精一杯でした。黙っていると好き勝手にボケてページが進み、話が進まなくなってしまうことも… キャラクターに愛着が湧いてしまい、全員にいい場面を作ってあげようとしているうちに話はどんどん長くなってしまいました。

 ですが、その計算されていない純粋なキャラクターへの愛情があったからこそ、この作品は物語として破綻することなかったのです。最後の長くて苦しい大魔王との戦争に読者が耐えることが出来たのは、その先にあるハッピーエンドを信じて疑わなかったからです。それは作者と読者の暗黙の了解であり、決して違えられることのない無形の約束だったのです。

 名作とは、権威ある評論家や売上実績だけで判断すべきものでない。「読者に何を残すことが出来たのか」こそが大切なのです。ハーメルンが読者に残したもの… それは人間の優しさと信じる心の強さ。人間は弱い。だからこそ誰かに寄り添って生きていく。人間の命は儚い。だからこそ命を繋ぎ、想いを伝えていく。様々な楽器が奏でる交響曲のように…