monthly Manga Review
無頼伝 涯
作者 : 福本伸行
本誌 : 週刊少年マガジン
単行本 : 全5巻

鬼才!福本伸行の世界

 ギャンブル漫画の鬼才:福本伸行。「銀と金」「天」「アカギ」…福本氏が手掛けたこれらの名作ギャンブル漫画は連載誌の性質上、一般人には知られることは無かった。しかし週刊ヤングマガジンの「賭博黙示録カイジ」で扱った「限定ジャンケン」が注目を集め、「鬼才:福本伸行」の名と作品は歴史の表舞台へと踊り出たのです。

 そんな福本氏初の少年誌連載作品、それが今回紹介する「無頼伝 涯」なのです。作風が作風だけに、決して少年誌向きの漫画家ではない。絵も決して上手いとは言えない。他誌の連載に穴を開けてまでして開始した今作品の連載には、いかなる意義があったのでしょうか?

孤立せよ!

 この作品のテーマは「少年犯罪という病根」。これまた少年誌らしからぬテーマなのですが、これは少年犯罪を抑止しようという机上の論理ではなく、少年を社会の歪みから救おうとか云う奇麗事でもない。もっと業の深い、もっと苛烈な、そしてもっと真摯なものなのです。

 主人公「工藤涯」は資産家殺害の冤罪に追われる少年。彼は両親に捨てられ、施設で育った。学校での無意味な時間つぶしと、反発する対象であるはずの社会の仕組みに庇護されている自分が許せなかった。施設からはみ出した彼は孤独で貧困だった。しかし、彼は自由と無限を感じていた。自由とは自分に由(よ)ることだ。自分によって生活の全てが決まるから、現実(リアル)なのだ…

 だが彼はその身軽な身分を資産家殺害事件に利用されて、少年更正施設「人間学園」に送り込まれる。そこは恐怖と暴力と狂気が渦巻く本物の地獄だった。ほとんどの少年が洗脳されて無気力にされていく中で、自らの無実を証明するために脱走を企てる涯。だが、熾烈な脱走劇の果てにぶつかった贖い難い現実とは?

人間の弱さと希望

 人間は弱い生き物である。自分の不遇を他人や社会のせいにし、今の自分は本当の自分ではないと逃避する。より強き権力に寄る辺を求め、自分よりも弱い立場の者に鬱憤を押し付けてしまう。福本氏の作品は、この人間の一番弱くて柔らかい部分を巧みに刺激し、狂気じみた人間の業を見せつける。決して目を背ける事を許さない。確かにそれも人間が持つ性質なのだから…

 しかし、福本氏は人間に絶望はしていない。それは今作品のラストシーンで端的に表現されている。人間は弱いが希望を信じることが出来る。人間は愚かだが信念を貫くことが出来る。それは青臭い理想論ではなく、命をかけた闘争によって掴んだ真実であり、人間の矜持と尊厳を守った者が辿り着いた真実なのです。

 福本氏の作品は重い。その重さに耐えられる健全な精神を持った方にだけ、氏の作品世界をオススメしたい。毒を持って毒を制する場合も時には必要であり、良薬は口に苦いのですから…