探偵紳士DASH!
DC販売/開発 : アーベル   2000/12/21発売
 恋愛・ドラマ  アドベンチャー  6時間 
シナリオ:菅野ひろゆき  キャラデザ:カーネリアン

探偵紳士DASH!とは?

 「探偵紳士DASH!」とは、2000年12月21日に発売されたDreamcast用のアドベンチャーゲームです。正確なジャンルを定義するとしたら「ハードボイルド・ロマンス・アドベンチャーゲーム」といったところでしょうか。この作品はパソコン用の18禁ギャルゲー「不確定世界の探偵紳士」の家庭用移植作ですが、この移植は、家庭用移植でありがちな、「エロ度を抑えただけ」の移植ではなく、キャラクターデザインに新進気鋭の絵師CARNELIANを起用して、主要キャラをデザインレベルから新たに描き起こしています。しかも、探偵紳士シリーズの続編となる「ミステリート〜不可逆世界の探偵紳士〜」に繋げるために、より深く独特の世界観を構築した「意欲的移植作」なのです。

鬼才「菅野(剣乃)ひろゆき」

 「EVE -burst error-」「DESIRE」「この世の果てで恋を唄う少女」「エクソダスギルティー」… これらの「知る人ぞ知る」名作群のプロデューサー兼シナリオライター、それが「菅野ひろゆき」氏です。菅野氏が独立して株式会社アーベルを設立した時にペンネーム「剣乃ひろゆき」を本名の「菅野ひろゆき」に改名しました。業界では菅野氏の名は「鬼才」の代名詞として広く知られています。

 菅野氏の作品の特徴は、どの作品にも共通している一貫したテーマにあります。それは「男と女の謎」です。愛ゆえに人は苦しむ、愛ゆえに人は憎しみを抱く、愛ゆえに人は過去に縛られる… だが、愛がなければ人は生きてはいけない。愛がなければ人は未来へと進めない。これもまた真実なのです。

 そんな人間のジレンマを一流のドラマに凝縮する…それが菅野氏のシナリオの特徴です。プレーヤーはその徹底した世界観と人間観に打ちのめされ、エンディングで泣かずにはいられなくなってしまいます。しかし、シナリオのあまりの破壊力ゆえに、残念ながら、万人に受け入れられる性質のものではありません。ですが、幸運にも菅野作品に出会い「菅野節」に一度ハマった人は、二度と離れることのできない強い印象を抱くことでしょう。それが「菅野マジック」なのです。

完全無欠のハードボイルド

 このゲームの主人公の名は「悪行双麻(あぎょうそうま)」。世界で30人しかいない「クラスA」の探偵にして、「巻き込まれ屋」の異名を持つ男である。街を歩いていれば銃撃戦に出逢い、喫茶店にいればトラックが飛び込んでくる。黙っていても事件の方が勝手にやってくるのです。彼にとっては降りかかる火の粉を払っているだけなのに、凄腕の探偵として表彰されてしまう。彼は言う、「俺の運は極悪だ」。

 鋭い洞察力と、斜に構えたシニカルな態度と、極めて厭世的な日常生活… 常に暗い過去に縛られ、頼れるのは己の推理と銃(リボルバーS&W)だけ… そんな典型的なハードボイルド探偵の彼ですが、まったく別の性質も合わせ持っています。本質的には暖かい心を持つために、時に自分のポリシーとの間に葛藤が生まれ、苦悩する。それが悪行双麻というキャラクターへの感情移入をより自然なものにしてくれます。

 そんな彼のもとに、ある日舞い込んできた些細な事件。 しかし、それは始まりでしかなかった。「メイ=ドロイド」と呼ばれる機械人形「ミント御剣」を巡る、激しい争奪戦の先に浮かんできた巨大犯罪組織「アウトフィット」。かつて自分を裏切って組織へ身を投じた妻「あやめ」との再会。鬼より怖い公安第四課と、巨大企業NEXUSの惷動。様々な人間の思惑と欺瞞と愛憎が交錯するドラマ…銃撃と抱擁と涙と誓い… その果てにあるものは…どうか、ご自分で確かめて下さい。「感動必至」のキャッチコピーに偽りなし!号泣必至です。要ハンカチ。

 願わくば、この感動必至のドラマが、Dreamcastの不振と終焉と共に忘れ去られて欲しくない。菅野ファンだけではなく、一般ユーザーにも自信を持ってオススメしたい逸品です。

First written : 2001/03/01
Last update : 2003/10/23